このカテゴリーで、アルセーヌ・ルパンが探偵として活躍する連作短編集『八点鐘』(クイーンの定員No. 69)を紹介しました。 「クイーンの定員」カテゴリーの第2回目は、モーリス・ルブラン『八点鐘』を取り上げます。 このカテゴリーの目的については、こちらの記事をご参照ください。 ルブランと言えばアルセーヌ・ルパンの生みの親で有 ... 続きを見る
定員No. 69:アバンチュールに胸をときめかせた『八点鐘』
探偵としてのルパンも魅力的ですが、やはりルパンと言えば「怪盗紳士」。この記事では、同じくクイーンの定員に選ばれたルパン物の第一短編集『怪盗紳士ルパン』をご紹介します。
作品の詳細データ
クイーンの定員No. 37
Arsène Lupin, Gentleman-Cambrioleur
『怪盗紳士ルパン』モーリス・ルブラン(仏1907年)ーHQR
9編収録、全編邦訳。
シリーズ・クリミナル:アルセーヌ・ルパン
- L'Arrestation d'Arsène Lupin「アルセーヌ・ルパンの逮捕」
- Arsène Lupin en prison 「獄中のアルセーヌ・ルパン」
- L'Évasion d'Arsène Lupin 「アルセーヌ・ルパンの脱獄」
- Le Mystérieux Voyageur 「謎の旅行者」(「ふしぎな旅行者」)
- Le Collier de la Reine 「王妃の首飾り」(「女王の首飾り」)
- Comment j'ai connu Arsène Lupin: Le sept de cœur「ハートの7」
- Le Coffre-fort de Madam Imbert「アンベール夫人の金庫」
- La Perle noire 「黒真珠」
- Sherlock Holmes arrive trop tard [改題:Herlock Sholmès arrive trop tard]「遅かりしシャーロック・ホームズ」
入手容易な邦訳
『怪盗紳士ルパン』平岡敦 訳(ハヤカワ文庫)に、全編収録。
『怪盗紳士リュパン』石川湧 訳(創元推理文庫)、『強盗紳士ルパン』中村真一郎 訳(ハヤカワ・ミステリ)に、7編収録。
『怪盗紳士ルパン』竹西英夫 訳(偕成社)に、全編収録。
【電子書籍】全編、『怪盗紳士ルパン』 平岡敦 訳(ハヤカワ文庫)、『怪盗紳士アルセーヌ・ルパン』大野一道 訳(グーテンベルク21)で読める。
7編は『快盗ルパン』水谷準 訳(角川文庫)でも読める。
あなたはリュパン派? ルパン派?
まず、日本ではルパン三世の影響もあって、アルセーヌ・「ル」パンと表記されるのが通常ですが、フランス語の"u"は日本語の「う」よりもっと口をすぼめて発音します。
"in"は「オン」に近い「アン」のように発音するので、"Lupin"は「リュポァン」という感じになります。
したがって、フランス語の発音的には「リュパン」の方が近いのですが…
だって、そう刷り込まれていますからね(汗)
創元推理文庫は2019年現在、期間限定ジャケット
「リュパン」表記の創元推理文庫ですが、2019年の今年は文庫創刊60周年であり、東京創元社では今年の始めから文庫創刊60周年フェアを実施しています。
その一環として、「人気漫画家による期間限定ブックカバー」という企画が催されており、『怪盗紳士リュパン』のカバーを担当されたのは種村有菜さん。
アニメ化もされた『神風怪盗ジャンヌ』などの作者さんで、上でお示ししたようなカバージャケットになっています。
「期間限定」なので、ご興味のある方はお早めに。
ただし、創元推理文庫の『怪盗紳士リュパン』には「アンベール夫人の金庫」と「黒真珠」が収録されておらず、代わりに第二短編集『ルパンの告白』から'La Mort qui rôde'「彷徨する死霊」(「うろつく死神」)が収められています。
それは、ハヤカワ・ミステリ(ポケミス)の『強盗紳士ルパン』や、電子書籍の『快盗ルパン』(角川文庫)も同様の作品構成のようです。
完訳版の紙書籍を望むなら偕成社版とハヤカワ文庫版
上には挙げていませんが、
『強盗紳士』モーリス・ルブラン、堀口大學 訳(新潮文庫:ルパン傑作集<4>)
は全編翻訳されていますが、こちらは『八点鐘』と同様に2019年現在品切れ状態。
したがって、『怪盗紳士ルパン』の完訳版の紙書籍を求めるなら偕成社版とハヤカワ文庫版です。
偕成社のアルセーヌ・ルパン全集は『八点鐘』の時にも触れましたが、一部の作品は「文庫化」されており、上ではそれをご紹介しました。
文庫と言っても、偕成社文庫のそれは一般の文庫よりも大きく、新書よりは一回り小さいサイズで、ソフトカバーの本です。漢字にはルビがついているので、小学校高学年くらいから読めそうです。
ハヤカワ文庫版は、現時点で最も新しい翻訳による完訳版です。
(新しいと言っても2005年初版ですが。)
私が今持っているのはこれで、訳者あとがきには「大人の読み物としてのルパン」を念頭に置いて翻訳された旨が記されています。
持っていながら久しく読んでいなかった私ですが、最近読んでみてやっぱり面白いなぁ、と再確認しました。(最初に読んだのは20年前に偕成社版。)
『ルパン、最後の恋』に「アルセーヌ・ルパンの逮捕」の雑誌初出版
『怪盗紳士ルパン』は、なんといっても最初の「アルセーヌ・ルパンの逮捕」から読み応えがあります。
その雑誌初出版が『ルパン、最後の恋』(ハヤカワ文庫)に併録されています。
"Le Dernier Amour d'Arsène Lupin"『ルパン、最後の恋』は、長らくその存在が一部の人々の間で知られていたルブランの未発表原稿が、ちょうどルブランの著作権が切れる2012年に発見され、その年に出版された文字通りアルセーヌ・ルパン最後の発表作品。
そして、その日本語訳版のうち、ハヤカワ・ミステリ(ポケミス)版と2013年のハヤカワ文庫版に、雑誌≪ジュ・セ・トゥ≫誌に初出時の「アルセーヌ・ルパンの逮捕」が収録されたのです。
単行本版は、この雑誌初出版に大幅な改訂を加えて出版されているので、これらを読み比べてみるのも一興でしょう。
ハヤカワ文庫のルパン・シリーズは、2005年に『怪盗紳士ルパン』と『カリオストロ伯爵夫人』を皮切りに、本来「ルパン全集」を目指して刊行されたのですが、『奇岩城』と『水晶の栓』を出して程なく頓挫してしまいました。
2013年に『ルパン、最後の恋』が文庫化されるまで、いくつかは品切れ状態でしたが、その後、2015年の早川書房創立70周年企画「ハヤカワ文庫 補完計画」で『ルパン対ホームズ』が出版され、後述するように品切れだった作品もトールサイズで復刊されました。
2019年現在、紙版の新刊で入手できないのは『水晶の栓』ですね。
電子書籍情報
電子化されている翻訳本
ハヤカワ文庫のルパン・シリーズ(上に挙げた6作品)はすべて電子書籍化されているので、『怪盗紳士ルパン』も電子書籍で読めます。
他には、グーテンベルク21が出版している『怪盗紳士アルセーヌ・ルパン』があり、これは過去に旺文社文庫から出版された作品の電子版のようです。これも全編読めます。
先述したように、角川文庫の『快盗ルパン』は「アンベール夫人の金庫」と「黒真珠」が収録されておらず、「死神徘徊(はいかい)」(「うろつく死神」)が代わりに収められているようです。
また、偕成社の『怪盗紳士ルパン』もハードカバー版が電子化されていますが、『八点鐘』と同様に、購入できる電子書籍ストアが以下のように限られます。
販売サイト(2019年7月現在)
- 電子書籍ストアBookLive!
- 楽天kobo
- ハイブリッド型総合書店honto
- 紀伊國屋書店Kinoppy
- auブックパス
- BOOK☆WALKER
- ソニーの電子書籍ストア【Reader Store】
コミカライズその1:『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』
こちらの記事でご紹介した『対訳 フランス語で読む「ルパンの告白」』(白水社)。 以前、当サイトで記したことがありますが、私が大学時代にフランス語を第二外国語として専攻したのは、アルセーヌ・ルパンの作品をフランス語で読みたかったからでした。 自分の趣味は、外国語を学ぶ強力な動機とな ... 続きを見る
シャーロック・ホームズやアルセーヌ・ルパンで外国語の学習
その編著者である太田浩一さんもコラムで「個人的にもっとも注目している」と挙げられているのが、森田崇さんの『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』です。
2019年現在、『怪盗紳士ルパン』を始め、『ルパンの告白』所収の「赤い絹のストール」、『ルパン対ホームズ』、「戯曲アルセーヌ・ルパン」(『戯曲アルセーヌ・ルパン』(論創社)所収)、『奇岩城』が、ルブランの原作に忠実かつダイナミックに漫画化されています。
怪盗ルパン伝アバンチュリエ【再誕計画版】 1: 怪盗紳士ルパン・上 (ルパン帝国再誕計画)
怪盗ルパン伝アバンチュリエ【再誕計画版】 2: 怪盗紳士ルパン・中 (ルパン帝国再誕計画)
怪盗ルパン伝アバンチュリエ【再誕計画版】 3: 怪盗紳士ルパン・下 (ルパン帝国再誕計画)
現在は電子出版に切り替わっており、2020年6月より新章『813』の連載がKindleにてスタートしました。
全巻揃えるのも良し、例えば、読み放題プランのKindle Unlimitedで読むのもいいかもしれません。
参考
「怪盗ルパン伝アバンチュリエ」電子版の配信状況は、「ルパン帝国再誕計画/エギーユ・クルーズ」のTwitter公式アカウント @re_lupin_empire で適宜告知されているようです。
ところで、早川書房公式のTwitterにもあるように、2019年2月にアバンチュリエとハヤカワ文庫がコラボして、トールサイズで復刊した『カリオストロ伯爵夫人』と『奇岩城』に、森田崇さんによる完全描き下ろしの「イラスト全面帯」がついていて話題になりました。(「カバー」ではなく「帯」なので、通常のカバーイラストも楽しめる。)
今でも手に入るかどうかは分かりませんが、書店で見かけたら手に取られると面白いと思います。
怪盗ルパン伝アバンチュリエ×ハヤカワ文庫コラボ!
限定描き下ろしイラスト帯Ver.モーリス・ルブラン『カリオストロ伯爵夫人』『奇岩城』が全国主要書店にて発売中!
ルブランの傑作2点を森田崇さんによる華麗なるイラスト全面帯でトール化復刊しました。この機会をお見逃しなく! pic.twitter.com/bDgOyeeNo7— 早川書房公式 (@Hayakawashobo) February 13, 2019
コミカライズその2:『VSルパン』
『円舞曲は白いドレスで』、『少女革命ウテナ』、『とりかえ・ばや』などで知られる、さいとうちほさんの『VSルパン』。
第1巻には第2短編集『ルパンの告白』所収の「ルパンの結婚」を漫画化した「プリンセスの結婚」の他に、「伯爵夫人の黒真珠」(原作:「黒真珠」)、「王妃の首飾り」が収められています。
先日、『VSルパン』第4巻が刊行が刊行されました。
同じ原作でも、『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』とはまた異なるアプローチで漫画化されているところもあるので、読み比べてみるのも面白いですよ。
終わりに;参考文献
クイーンの定員No. 37の『怪盗紳士ルパン』。
ここでは触れませんでしたが、シャーロック・ホームズ(ならぬハーロック・ショームズ)が初登場する作品もあったり、作者である「わたし(ぼく)」(=ルブランのこと)がルパンと知り合った経緯を描いた作品もあったり、また、ルパンの成功談・失敗談もあれば、ルパン初手柄の事件も記されたりするなど、読みどころ満載です。
また、ジュブナイルについてもここではほとんど触れていませんが、子供向けに書かれた『怪盗紳士ルパン』も数多くあり、子供から大人まで楽しめる作品です。
コミカライズ作品もあるので、ルパン三世などしか触れたことのない方も、原典にあたるルブランのルパン・シリーズの最初の短編集をぜひ読んでみてください。
この記事の参考文献・参考図書・参考サイト
森田崇,「(コミックエッセイ)ルパン vs 森田崇」, 『ハヤカワミステリマガジン2018年11月号(第63巻第6号)』(早川書房)p.94〜p.97
糸田屯, 「ルパン・コミカライズの世界」, 『ハヤカワミステリマガジン2018年11月号(第63巻第6号)』(早川書房)p.98〜p.99
ジャック・ドゥルワール 著・大友徳明 訳, ルパンの世界(水声社)