広告 シャーロック・ホームズ ミステリー・推理

真冬にはミステリー、クリスマスにはクリスティーを

2021年12月4日

クリスマスと本

Jill WellingtonによるPixabayからの画像

クリスマスを舞台にしたミステリーは、古今東西いろいろあります。
2021年11月には、興味深い傑作選が2冊刊行されました。
1つは、1979年に刊行された、国内外のミステリー13編を収めたアンソロジーを文庫化したもの。
もう1つは、ミステリの女王アガサ・クリスティーの短編から、冬をテーマにした作品を収録した、豪華な函入り本です。
この記事では、その2冊について、活躍する探偵に注目しながらご紹介します。

ミステリ愛好家に贈るクリスマス・プレゼント

サンタクロースの贈物 クリスマス×ミステリーアンソロジー

本書は著名なミステリ評論家である新保博久さんが、名義上の編者を田村隆一さんにお願いして、1979年に河出書房新社から刊行された『サンタクロースの贈物(おくりもの)——クリスマス・ミステリー傑作選』を文庫化したものです。
4編については、より新しい翻訳に差し替えられています。
(底本の記載がないものは、1979年刊行の単行本『サンタクロースの贈物』を底本としているようです。)

アーサー・コナン・ドイル「青いガーネット」

それに、今はクリスマスで、ゆるしの季節だ。

「青いガーネット」よりホームズの言葉

ポイント

探偵:シャーロック・ホームズ
原題:The Adventure of the Blue Carbuncle(1892年)
底本:河出文庫『シャーロック・ホームズの冒険』(小林司/東山あかね 訳)2014年

ホームズ物語(の原作)では唯一クリスマスに絡む作品で、読者人気も高い短編。
ホームズが披露する推理の中には、

ラルくん
ラルくん

そんな馬鹿な?!

……というのもありますが、テンポよく話が進行するホームズ物語の名作です。

上で「ホームズ物語(の原作)では」と記しましたが、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」では、原作では真夏の舞台設定のところ、クリスマスの頃の出来事として映像化した作品があります。

この作品を気に入ったら

この作品を読んでホームズ物語に興味を抱かれた方は、本作が収められている『シャーロック・ホームズの冒険』もぜひ読んでみてください。
ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」でも、TVドラマ化されています。

また、新潮社から出ている「新潮CD」では「青いガーネット」がオーディオドラマ化されています。
新潮CD(前身は新潮カセット)では、ホームズ物語のうち10話について、新潮文庫の延原謙さんの翻訳を底本にしてオーディオドラマを制作されています。
ワトスンは永井一郎さん(「サザエさん」の初代・磯野波平役が有名。その他、吹き替え多数)、ホームズは小川真司さん(ヒッチコック映画のジェームズ・スチュアートが持ち役。ほかに、マイケル・ダグラスなどの洋画吹き替え、ナレーション、CMなど多数)
その他、豪華声優陣による1時間のオーディオドラマをご堪能下さい。

あわせて読みたい

O・ヘンリー「警官と賛美歌」

推理作家でないO・ヘンリーをミステリー・アンソロジーに採るなら、犯罪者と警察官との攻防を描く本篇のほうがふさわしいだろう

『サンタクロースの贈物』(河出文庫)解説より

ポイント

原題:The Cop and the Anthem(1904年;大久保康雄 訳)

本作はO・ヘンリーらしさが溢れた、皮肉が効いていてユーモラスな作品。

この作品を気に入ったら

O・ヘンリーの有名なクリスマス・ストーリー「賢者の贈り物」は、最近でも新訳刊行されています。
こちらの記事をご参照ください。

あわせて読みたい

G・K・チェスタートン「飛ぶ星」

……、ファンタスティックな雰囲気の甘美さに惹かれるからだけでなく、シリーズ最初期の神父の宿敵である盗賊エルキュール・フランボーの改悛編であり、以後のシリーズへの転回点でもあるからだ。

『世界の名探偵コレクション10 ③ブラウン神父』(集英社文庫)解説より

ポイント

探偵:ブラウン神父
原題:The Flying Stars(1911年)
底本:集英社文庫『世界の名探偵コレクション10 ③ブラウン神父』(二宮磬 訳)1997年

上の引用は、この集英社文庫の解説からですが、その解説を担当されているのが新保博久さんです。
このコレクションは、私の「今」を形成するのに重要な役割を果たしました。
ブラウン神父ものは5冊の短編集(全51短編)と合作1編、未収録短編1編から成りますが、この集英社文庫のアンソロジーは5つの短編集から1編ずつと合作1編が収録されているので、ブラウン神父入門に最適です。
ただ、残念ながら現在は品切れ中。

この作品を気に入ったら

「飛ぶ星」は第1短編集『ブラウン神父の童心』に収められており、新訳もいくつかあります。

あわせて読みたい

アガサ・クリスティ「クリスマスの悲劇」

ポイント

探偵:ミス・マープル(ジェーン・マープル)
原題:A Christmas Tragedy(1932年)
底本:創元推理文庫『ミス・マープルと13の謎』(深町眞理子 訳)2019年

アガサ・クリスティが生み出した二大名探偵、と言えば、エルキュール・ポワロとミス・マープル。
本作が収められている短編集『ミス・マープルと13の謎』Miss Marple and the Thirteen Problemsがイギリスで刊行されたのは1932年ですが、この短編集の第1話「〈火曜の夜〉クラブ」The Tuesday Nght Club が雑誌に発表されたのは1927年で、これがミス・マープルのデビュー作です。
なお、アメリカではこの短編集は"The Tuesday Murders"という題名で出版されました。
それもあって、ハヤカワ・クリスティー文庫の邦題は『火曜クラブ』、第1話も「火曜クラブ」というタイトルで収録されています。

創元推理文庫では「クリスティ」、「ポワロ」。
ハヤカワ・クリスティー文庫では「クリスティー」、「ポアロ」です。

さて。
セント・メアリー・ミードという村に住むミス・マープルは、編み物好きの老婦人ですが、客人を招いたある火曜日の夜、甥の小説家レイモンド・ウェストが「未解決の謎か」とつぶやく独り言がきっかけで、週に一度、集まって、自分だけが知っている、結末もわかっている未解決の謎を問題に出して、一同が解答を出し合うことになります。
クラブの名は〈火曜の夜〉クラブ。
第1話から第6話では、スコットランド・ヤードの前総監ヘンリー・クリザリング卿、牧師、レイモンド、女性画家、弁護士、そして「ジェーン伯母さん」がそれぞれ語り手を務めます。
第7話から第12話ではクリザリング卿を残して、あとの人物は入れ替わり、舞台もセント・メアリー・ミードに程近い、クリザグリング卿の旧友のバントリー大佐夫妻の屋敷にて、医師、女優、そしてミス・マープルを招いて、クラブが開かれます。
最後の第13話「水死した娘」「溺死」)だけは異色作で、現在進行形の作品です。

クラブの皆でああだこうだと推理をした最後に、ミス・マープルがずばりと真相を指摘する、という安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)ぶりがミソですが、本作「クリスマスの悲劇」は第10話で、ミス・マープルが語り手です。
この作品のトリックは、後にクリスティは某長編でも応用していますね。

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『ミス・マープルと13の謎』は、2019年に深町さんの訳で新訳刊行されました。

クリスティー文庫の中村妙子さんの訳も味わい深いです。(以下の記事のこちらをご参照ください。)

あわせて読みたい

ジョルジュ・シムノン「児童聖歌隊員の証言」

ポイント

探偵:メグレ警視(メグレ警部)
原題:Le Témoignage de l'Enfant de Chœur(1946年;新庄嘉章 訳)

ある児童聖歌隊員が、通りで死体を見て、犯人がそばから逃げ出したと証言するのですが、その事件を目撃した人物は他に誰もいない。少年の作り話なのか?

中盤、メグレがインフルエンザにかかって、メグレ夫人と会話しながら推理を進めていき、そして、真実が明らかになっていくシーンが印象的です。
なお、本作では「警部」と翻訳されていますが、近年ではCommissaire Maigretは「メグレ警視」と訳されるのが一般的です。
ただ、巻末の解説には、「警部」のほうがまだしも適切であるその理由が記されています。

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中編「メグレ警視のクリスマス」や、「生と死の問題」の警部がメグレに改変された「メグレとパリの通り魔(手帳の小さな十字印)」は、偕成社文庫の『メグレ警視の事件簿』シリーズ(全3巻、長島良三 訳)に収録されています。
(「文庫」と言ってもソフトカバーの単行本サイズで、小中学生向けのため漢字にはルビが振られています。)
第1巻に「メグレ警視のクリスマス」、第2巻に「メグレとパリの通り魔」が収められていますが、他のメグレ作品と同様に、紙書籍は現在品切れ絶版中なのが残念なところ。
このうち、「メグレ警視のクリスマス」は電子書籍(グーテンベルク21)で読めます。

エラリイ・クイーン「クリスマスと人形」

ポイント

探偵:エラリイ・クイーン
原題:The Dauphin's Doll(1948年;宇野利泰 訳)

アルセーヌ・ルパンばりの伝説的な予告怪盗コーマスが、クリスマスの前日に有名デパートで展示中のフランス皇太子人形(ドーフィン・ドル)とその頭にあるダイヤモンドをはめ込んだ宝冠を盗んでみせる、と宣言した。
エラリイ・クイーンとその父、そして数ダースもの警視の部下たちが集まり、警護するが……。

クイーンという筆名を共有する二人のうち、フレデリック・ダネイがプロットを立て、いとこのマンフレッド・リーが小説化するという分業体制は、両氏の生前から噂されていたそうです。
ただ、この「クリスマスと人形」に関しては、原型のラジオドラマからして例外的にリーがプロットを立てたことが、近年相次いで出版された国書刊行会の『エラリー・クイーン 推理の芸術』『エラリー・クイーン 創作の秘密』に記されています。
なお、本作は「フランス皇太子の人形」というタイトルで、アイザック・アシモフ 他編『クリスマス12のミステリー』(池央耿 訳、新潮文庫)にも収録されています。

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本作は連作短編集『犯罪カレンダー』(宇野利泰 訳、ハヤカワ文庫)の最終話に据えられました。
この短編集は、1939年から全米で放送され、クイーン自身が脚本を書いたラジオドラマ版「エラリー・クイーンの冒険」を、「1月、2月、……、12月の各月の行事にちなんだ事件」という縛りで、クイーン自らが小説化したもの。
日本では上下巻に分かれており、あいにく紙書籍版は品切れ中ですが、電子書籍で読めます。

その他、クイーンのクリスマス・ストーリーと言えば『最後の一撃』という作品があるのですが、もしクイーンをあまり読んだことがなければ、これを始めに読むのはお薦めしません。
それより、最近刊行されたエラリー・クイーンのガイドブック『エラリー・クイーン完全ガイド』を手に取るのがよいでしょう。
このガイドブックは、エラリー・クイーン研究の第一人者が、全作品のあらすじ、読みどころ、本格ミステリとしての達成、その影響下にある日本のミステリ作品まで紹介されています。

ジョン・コリア「クリスマスに帰る」

ポイント

原題:Back for Christmas(1939年)
底本:早川書房『炎のなかの絵』(村上啓夫 訳)2006年

わずか10ページほどのサスペンス・ストーリーで、いちばんクリスマスの季節に遠い作品でもあるのですが、収録作品の中では最も残虐な行為が出てきます。
その完全犯罪が、ひょんなことから破綻するのが読みどころです。
本作は江戸川乱歩 編『世界推理短編傑作集5』(創元推理文庫)にも収められています(宇野利泰 訳)。

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本作は、早川書房の異色作家短篇集『炎のなかの絵』に収録された一編。
この短編集の冒頭に収められた一編、「夢判断」は、特に評価が高い作品なので、もし「クリスマスに帰る」が物足りないと思われた方も、ぜひ一度コリアを読んでみてください。
他に代表作と言われている「ナツメグの味」が収録された、日本オリジナル編集の短編集『ナツメグの味』(垂野創一郎 他訳、河出書房新社)は、2021年現在品切れ中ですが、表題作の短編「ナツメグの味」は小森収 編『短編ミステリの二百年1』(創元推理文庫)にて新訳で読めます(藤村裕美 訳)。

日本作家のクリスマス・ミステリーは昭和の香り

戸板康二「死んでもCM」

ポイント

探偵:中村雅楽

テレビCMで人気だったタレント「CM氏」の急死の場に居合わせた、歌舞伎役者の中村雅楽ら。
新聞記者の吉野は「死んでもCM」という題で報道するが、その2日後、死んだタレントの中学生の娘が、父のポケットに入っていた奇妙な数字の書かれたマッチを持ってきて……。

この題名については、『サンタクロースの贈物』の解説にて説明されています。
「CM氏」の出演していたCMにも解決の一端があって、なかなか面白い作品でした。
中村雅楽の活躍は、創元推理文庫の〈中村雅楽探偵全集〉全5巻にて、電子書籍でも読めるようです。

加田伶太郞「サンタクロースの贈物 (a Xmas story)」

風邪をひいたポコ君は、サンタクロースの贈物を待ちながら、眼を閉じた。
子守をしていた正子は、ポコ君が寝るやいなや、その日、幼稚園でサンタクロースの扮装をして、子供たちにお土産をくばっていたボーイフレンドが会いに来るのを待っていたが、そこに現れたサンタクロースは……。

加田伶太郞は作家・福永武彦さんのペンネームです。
本作はよくありそうな(?)話ではありますが、オチも秀逸です。

星新一「クリスマス・イブの出来事」

ポイント

底本:新潮文庫『エヌ氏の遊園地』1985年

以下の作品は、いずれもSFの範疇に入るショート・ショートです。
星新一さんは言わずと知れたSF作家の第一人者。
本物(!)のサンタクロースが登場するのですが……。

山川方夫「メリイ・クリスマス」


ある秋の夜、彼は身長5センチにみたない女とアパートの手すりで出会った。
彼は、彼女と目で話し、彼女のために自分の机の抽斗(ひきだ)しの一つに、彼女のベットをつくった。
妻のいる身の彼だが、彼女との交際が始まる……。

山川方夫さんは純文学畑ということですが、本作もSF。
最後はクリスマス・イヴらしく幕を閉じます。

半村良「マッチ売り」

花束の売れない花売り娘が、いつも最後のたよりにしている場所、『舶来居酒屋 馬酔木(あしび)』。
だが、クリスマスの晩なのに、そこもさむざむとしており、タイムマシンの研究にとりつかれた伊丹を愛していた、うた子が泣いていた……。

半村良さんの本作も収められたハヤカワ文庫の短編集は、最近、電子書籍でも読めるようです。

筒井康隆「最後のクリスマス」

ポイント

底本:新潮文庫『くたばれPTA』1986年

筒井康隆さんも言わずと知れたSF作家の一人。
この作品も本物のサンタクロースが登場するのですが……。
シニカルな視点で社会風刺をされています。

まとめ:『サンタクロースの贈物』は文庫で手軽に読める

以上、聖なる夜であるクリスマスを舞台(と言っても、すべてがクリスマス・シーズンの出来事というわけではありませんが)にした国内外のミステリー13編を収めた、『サンタクロースの贈物 クリスマス×ミステリーアンソロジーをご紹介しました。
文庫なので手軽に読める楽しいクリスマス・プレゼント。
このアンソロジーで興味を抱いた作家さんについては、彼らの関連作品にも手を伸ばしたいところです。

クリスマスの殺人 クリスティー傑作選 →別記事に移動

「クリスマスにはクリスティーを!」 "A Christie for Christmas!"

『クリスマスの殺人 クリスティー傑作選については、2022年版が出たこともあり、また、この記事が長文になって読みづらかったので、別の記事に移動しました。
以下の記事をご参照ください。

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