シャーロック・ホームズ ミステリー・推理

真冬にはミステリー、クリスマスにはクリスティーを

2021年12月4日

クリスマスと本

Jill WellingtonによるPixabayからの画像

クリスマスを舞台にしたミステリーは、古今東西いろいろあります。
2021年11月には、興味深い傑作選が2冊刊行されました。
1つは、1979年に刊行された、国内外のミステリー13編を収めたアンソロジーを文庫化したもの。
もう1つは、ミステリの女王アガサ・クリスティーの短編から、冬をテーマにした作品を収録した、豪華な函入り本です。
この記事では、その2冊について、活躍する探偵に注目しながらご紹介します。

ミステリ愛好家に贈るクリスマス・プレゼント

クリスマスの殺人 クリスティー傑作選

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サンタクロースの贈物 クリスマス×ミステリーアンソロジー

本書は著名なミステリ評論家である新保博久さんが、名義上の編者を田村隆一さんにお願いして、1979年に河出書房新社から刊行された『サンタクロースの贈物(おくりもの)——クリスマス・ミステリー傑作選』を文庫化したものです。
4編については、より新しい翻訳に差し替えられています。
(底本の記載がないものは、1979年刊行の単行本『サンタクロースの贈物』を底本としているようです。)

アーサー・コナン・ドイル「青いガーネット」

それに、今はクリスマスで、ゆるしの季節だ。

「青いガーネット」よりホームズの言葉

ポイント

探偵:シャーロック・ホームズ
原題:The Adventure of the Blue Carbuncle(1892年)
底本:河出文庫『シャーロック・ホームズの冒険』(小林司/東山あかね 訳)2014年

ホームズ物語(の原作)では唯一クリスマスに絡む作品で、読者人気も高い短編。
ホームズが披露する推理の中には、

ラルくん

そんな馬鹿な?!

……というのもありますが、テンポよく話が進行するホームズ物語の名作です。

上で「ホームズ物語(の原作)では」と記しましたが、ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」では、原作では真夏の舞台設定のところ、クリスマスの頃の出来事として映像化した作品があります。

この作品を気に入ったら

この作品を読んでホームズ物語に興味を抱かれた方は、本作が収められている『シャーロック・ホームズの冒険』もぜひ読んでみてください。
ジェレミー・ブレット主演の「シャーロック・ホームズの冒険」でも、TVドラマ化されています。

また、新潮社から出ている「新潮CD」では「青いガーネット」がオーディオドラマ化されています。
新潮CD(前身は新潮カセット)では、ホームズ物語のうち10話について、新潮文庫の延原謙さんの翻訳を底本にしてオーディオドラマを制作されています。
ワトスンは永井一郎さん(「サザエさん」の初代・磯野波平役が有名。その他、吹き替え多数)、ホームズは小川真司さん(ヒッチコック映画のジェームズ・スチュアートが持ち役。ほかに、マイケル・ダグラスなどの洋画吹き替え、ナレーション、CMなど多数)
その他、豪華声優陣による1時間のオーディオドラマをご堪能下さい。

あわせて読みたい
青いガーネット―シャーロック・ホームズ [新潮CD] (新潮CD 名作ミステリー)

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コナン・ドイル
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O・ヘンリー「警官と賛美歌」

推理作家でないO・ヘンリーをミステリー・アンソロジーに採るなら、犯罪者と警察官との攻防を描く本篇のほうがふさわしいだろう

『サンタクロースの贈物』(河出文庫)解説より

ポイント

原題:The Cop and the Anthem(1904年;大久保康雄 訳)

本作はO・ヘンリーらしさが溢れた、皮肉が効いていてユーモラスな作品。

この作品を気に入ったら

O・ヘンリーの有名なクリスマス・ストーリー「賢者の贈り物」は、最近でも新訳刊行されています。
こちらの記事をご参照ください。

あわせて読みたい

G・K・チェスタートン「飛ぶ星」

……、ファンタスティックな雰囲気の甘美さに惹かれるからだけでなく、シリーズ最初期の神父の宿敵である盗賊エルキュール・フランボーの改悛編であり、以後のシリーズへの転回点でもあるからだ。

『世界の名探偵コレクション10 ③ブラウン神父』(集英社文庫)解説より

ポイント

探偵:ブラウン神父
原題:The Flying Stars(1911年)
底本:集英社文庫『世界の名探偵コレクション10 ③ブラウン神父』(二宮磬 訳)1997年

上の引用は、この集英社文庫の解説からですが、その解説を担当されているのが新保博久さんです。
このコレクションは、私の「今」を形成するのに重要な役割を果たしました。
ブラウン神父ものは5冊の短編集(全51短編)と合作1編、未収録短編1編から成りますが、この集英社文庫のアンソロジーは5つの短編集から1編ずつと合作1編が収録されているので、ブラウン神父入門に最適です。
ただ、残念ながら現在は品切れ中。

この作品を気に入ったら

「飛ぶ星」は第1短編集『ブラウン神父の童心』に収められており、新訳もいくつかあります。

あわせて読みたい

アガサ・クリスティ「クリスマスの悲劇」

ポイント

探偵:ミス・マープル(ジェーン・マープル)
原題:A Christmas Tragedy(1932年)
底本:創元推理文庫『ミス・マープルと13の謎』(深町眞理子 訳)2019年

アガサ・クリスティが生み出した二大名探偵、と言えば、エルキュール・ポワロとミス・マープル。
本作が収められている短編集『ミス・マープルと13の謎』Miss Marple and the Thirteen Problemsがイギリスで刊行されたのは1932年ですが、この短編集の第1話「〈火曜の夜〉クラブ」The Tuesday Nght Club が雑誌に発表されたのは1927年で、これがミス・マープルのデビュー作です。
なお、アメリカではこの短編集は"The Tuesday Murders"という題名で出版されました。
それもあって、ハヤカワ・クリスティー文庫の邦題は『火曜クラブ』、第1話も「火曜クラブ」というタイトルで収録されています。

創元推理文庫では「クリスティ」、「ポワロ」。
ハヤカワ・クリスティー文庫では「クリスティー」、「ポアロ」です。

さて。
セント・メアリー・ミードという村に住むミス・マープルは、編み物好きの老婦人ですが、客人を招いたある火曜日の夜、甥の小説家レイモンド・ウェストが「未解決の謎か」とつぶやく独り言がきっかけで、週に一度、集まって、自分だけが知っている、結末もわかっている未解決の謎を問題に出して、一同が解答を出し合うことになります。
クラブの名は〈火曜の夜〉クラブ。
第1話から第6話では、スコットランド・ヤードの前総監ヘンリー・クリザリング卿、牧師、レイモンド、女性画家、弁護士、そして「ジェーン伯母さん」がそれぞれ語り手を務めます。
第7話から第12話ではクリザリング卿を残して、あとの人物は入れ替わり、舞台もセント・メアリー・ミードに程近い、クリザグリング卿の旧友のバントリー大佐夫妻の屋敷にて、医師、女優、そしてミス・マープルを招いて、クラブが開かれます。
最後の第13話「水死した娘」「溺死」)だけは異色作で、現在進行形の作品です。

クラブの皆でああだこうだと推理をした最後に、ミス・マープルがずばりと真相を指摘する、という安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)ぶりがミソですが、本作「クリスマスの悲劇」は第10話で、ミス・マープルが語り手です。
この作品のトリックは、後にクリスティは某長編でも応用していますね。

この作品を気に入ったら

『ミス・マープルと13の謎』は、2019年に深町さんの訳で新訳刊行されました。
クリスティー文庫の中村妙子さんの訳も味わい深いです。(後述)

ミス・マープルと13の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

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ジョルジュ・シムノン「児童聖歌隊員の証言」

ポイント

探偵:メグレ警視(メグレ警部)
原題:Le Témoignage de l'Enfant de Chœur(1946年;新庄嘉章 訳)

ある児童聖歌隊員が、通りで死体を見て、犯人がそばから逃げ出したと証言するのですが、その事件を目撃した人物は他に誰もいない。少年の作り話なのか?

中盤、メグレがインフルエンザにかかって、メグレ夫人と会話しながら推理を進めていき、そして、真実が明らかになっていくシーンが印象的です。
なお、本作では「警部」と翻訳されていますが、近年ではCommissaire Maigretは「メグレ警視」と訳されるのが一般的です。
ただ、巻末の解説には、「警部」のほうがまだしも適切であるその理由が記されています。

この作品を気に入ったら

中編「メグレ警視のクリスマス」や、「生と死の問題」の警部がメグレに改変された「メグレとパリの通り魔(手帳の小さな十字印)」は、偕成社文庫の『メグレ警視の事件簿』シリーズ(全3巻、長島良三 訳)に収録されています。
(「文庫」と言ってもソフトカバーの単行本サイズで、小中学生向けのため漢字にはルビが振られています。)
第1巻に「メグレ警視のクリスマス」、第2巻に「メグレとパリの通り魔」が収められていますが、他のメグレ作品と同様に、紙書籍は現在品切れ絶版中なのが残念なところ。
このうち、「メグレ警視のクリスマス」は電子書籍(グーテンベルク21)で読めます。

メグレ警視の事件簿 〈2〉 (偕成社文庫)

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ジョルジュ シムノン
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メグレ警視のクリスマス

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エラリイ・クイーン「クリスマスと人形」

ポイント

探偵:エラリイ・クイーン
原題:The Dauphin's Doll(1948年;宇野利泰 訳)

アルセーヌ・ルパンばりの伝説的な予告怪盗コーマスが、クリスマスの前日に有名デパートで展示中のフランス皇太子人形(ドーフィン・ドル)とその頭にあるダイヤモンドをはめ込んだ宝冠を盗んでみせる、と宣言した。
エラリイ・クイーンとその父、そして数ダースもの警視の部下たちが集まり、警護するが……。

クイーンという筆名を共有する二人のうち、フレデリック・ダネイがプロットを立て、いとこのマンフレッド・リーが小説化するという分業体制は、両氏の生前から噂されていたそうです。
ただ、この「クリスマスと人形」に関しては、原型のラジオドラマからして例外的にリーがプロットを立てたことが、近年相次いで出版された国書刊行会の『エラリー・クイーン 推理の芸術』『エラリー・クイーン 創作の秘密』に記されています。
なお、本作は「フランス皇太子の人形」というタイトルで、アイザック・アシモフ 他編『クリスマス12のミステリー』(池央耿 訳、新潮文庫)にも収録されています。

この作品を気に入ったら

本作は連作短編集『犯罪カレンダー』(宇野利泰 訳、ハヤカワ文庫)の最終話に据えられました。
この短編集は、1939年から全米で放送され、クイーン自身が脚本を書いたラジオドラマ版「エラリー・クイーンの冒険」を、「1月、2月、……、12月の各月の行事にちなんだ事件」という縛りで、クイーン自らが小説化したもの。
日本では上下巻に分かれており、あいにく紙書籍版は品切れ中ですが、電子書籍で読めます。

その他、クイーンのクリスマス・ストーリーと言えば『最後の一撃』という作品があるのですが、もしクイーンをあまり読んだことがなければ、これを始めに読むのはお薦めしません。
それより、最近刊行されたエラリー・クイーンのガイドブック『エラリー・クイーン完全ガイド』を手に取るのがよいでしょう。
このガイドブックは、エラリー・クイーン研究の第一人者が、全作品のあらすじ、読みどころ、本格ミステリとしての達成、その影響下にある日本のミステリ作品まで紹介されています。

犯罪カレンダー(1~6月)

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犯罪カレンダー(7~12月)

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エラリー・クイーン完全ガイド (星海社 e-SHINSHO)

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ジョン・コリア「クリスマスに帰る」

ポイント

原題:Back for Christmas(1939年)
底本:早川書房『炎のなかの絵』(村上啓夫 訳)2006年

わずか10ページほどのサスペンス・ストーリーで、いちばんクリスマスの季節に遠い作品でもあるのですが、収録作品の中では最も残虐な行為が出てきます。
その完全犯罪が、ひょんなことから破綻するのが読みどころです。
本作は江戸川乱歩 編『世界推理短編傑作集5』(創元推理文庫)にも収められています(宇野利泰 訳)。

この作品を気に入ったら

本作は、早川書房の異色作家短篇集『炎のなかの絵』に収録された一編。
この短編集の冒頭に収められた一編、「夢判断」は、特に評価が高い作品なので、もし「クリスマスに帰る」が物足りないと思われた方も、ぜひ一度コリアを読んでみてください。
他に代表作と言われている「ナツメグの味」が収録された、日本オリジナル編集の短編集『ナツメグの味』(垂野創一郎 他訳、河出書房新社)は、2021年現在品切れ中ですが、表題作の短編「ナツメグの味」は小森収 編『短編ミステリの二百年1』(創元推理文庫)にて新訳で読めます(藤村裕美 訳)。

炎のなかの絵 (異色作家短篇集)

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ナツメグの味 (KAWADE MYSTERY)

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ジョン コリア
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日本作家のクリスマス・ミステリーは昭和の香り

戸板康二「死んでもCM」

ポイント

探偵:中村雅楽

テレビCMで人気だったタレント「CM氏」の急死の場に居合わせた、歌舞伎役者の中村雅楽ら。
新聞記者の吉野は「死んでもCM」という題で報道するが、その2日後、死んだタレントの中学生の娘が、父のポケットに入っていた奇妙な数字の書かれたマッチを持ってきて……。

この題名については、『サンタクロースの贈物』の解説にて説明されています。
「CM氏」の出演していたCMにも解決の一端があって、なかなか面白い作品でした。
中村雅楽の活躍は、創元推理文庫の〈中村雅楽探偵全集〉全5巻にて、電子書籍でも読めるようです。

團十郎切腹事件 中村雅楽探偵全集 (創元推理文庫)

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戸板 康二
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グリーン車の子供 中村雅楽探偵全集 (創元推理文庫)

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戸板 康二
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発売日: 2007/04/27
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加田伶太郞「サンタクロースの贈物 (a Xmas story)」

風邪をひいたポコ君は、サンタクロースの贈物を待ちながら、眼を閉じた。
子守をしていた正子は、ポコ君が寝るやいなや、その日、幼稚園でサンタクロースの扮装をして、子供たちにお土産をくばっていたボーイフレンドが会いに来るのを待っていたが、そこに現れたサンタクロースは……。

加田伶太郞は作家・福永武彦さんのペンネームです。
本作はよくありそうな(?)話ではありますが、オチも秀逸です。

深夜の散歩 (ミステリの愉しみ) (創元推理文庫)

深夜の散歩 (ミステリの愉しみ) (創元推理文庫)

福永 武彦, 中村 真一郎, 丸谷 才一
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星新一「クリスマス・イブの出来事」

ポイント

底本:新潮文庫『エヌ氏の遊園地』1985年

以下の作品は、いずれもSFの範疇に入るショート・ショートです。
星新一さんは言わずと知れたSF作家の第一人者。
本物(!)のサンタクロースが登場するのですが……。

エヌ氏の遊園地 (新潮文庫)

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新一, 星
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山川方夫「メリイ・クリスマス」


ある秋の夜、彼は身長5センチにみたない女とアパートの手すりで出会った。
彼は、彼女と目で話し、彼女のために自分の机の抽斗(ひきだ)しの一つに、彼女のベットをつくった。
妻のいる身の彼だが、彼女との交際が始まる……。

山川方夫さんは純文学畑ということですが、本作もSF。
最後はクリスマス・イヴらしく幕を閉じます。

親しい友人たち (山川方夫ミステリ傑作選) (創元推理文庫)

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山川 方夫
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半村良「マッチ売り」

花束の売れない花売り娘が、いつも最後のたよりにしている場所、『舶来居酒屋 馬酔木(あしび)』。
だが、クリスマスの晩なのに、そこもさむざむとしており、タイムマシンの研究にとりつかれた伊丹を愛していた、うた子が泣いていた……。

半村良さんの本作も収められたハヤカワ文庫の短編集は、最近、電子書籍でも読めるようです。

半村良コレクション1

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半村良
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筒井康隆「最後のクリスマス」

ポイント

底本:新潮文庫『くたばれPTA』1986年

筒井康隆さんも言わずと知れたSF作家の一人。
この作品も本物のサンタクロースが登場するのですが……。
シニカルな視点で社会風刺をされています。

くたばれPTA (新潮文庫)

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筒井 康隆
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まとめ(1):『サンタクロースの贈物』は文庫で手軽に読める

以上、聖なる夜であるクリスマスを舞台(と言っても、すべてがクリスマス・シーズンの出来事というわけではありませんが)にした国内外のミステリー13編を収めた、『サンタクロースの贈物 クリスマス×ミステリーアンソロジーをご紹介しました。
文庫なので手軽に読める楽しいクリスマス・プレゼント。
このアンソロジーで興味を抱いた作家さんについては、彼らの関連作品にも手を伸ばしたいところです。

クリスマスの殺人 クリスティー傑作選

「クリスマスにはクリスティーを!」 "A Christie for Christmas!"

本書は、"Midwinter Murder : Fireside Mysteries from the Queen of Crime"というタイトルで、2020年に英米で出版されたアガサ・クリスティーの短編傑作集の翻訳です。
真冬に起こった殺人などをテーマにした作品が収録されており、エルキュール・ポアロやミス・マープルを始め、クリスティーの生み出した探偵が多く登場しています。
なお、クリスティーの短編のほとんどは、雑誌から短編集に収録されていますが、イギリスとアメリカでは別の短編集に収録されることが多いので、本書の巻末には書誌情報が付記されています。
日本語訳はすべてハヤカワ文庫(クリスティー文庫)収録のものが用いられています。(この記事の「底本」は日本語訳の底本です。)

ポイント

原題:Introduction: Christmas at Abney Hall
底本:『アガサ・クリスティー自伝』An Autobiography(1977年;乾信一郎 訳)より抜粋

序文もクリスティーの筆によるもので、『アガサ・クリスティー自伝(上巻)』「第三部 成長する」からの抜粋です。
クリスティーが子供の頃、イギリス北西部チェシャの“アブニー邸”にてクリスマスをよく過ごしたことが、楽しそうに記されています。

アガサ・クリスティー自伝(上) (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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アガサ・クリスティー自伝(下) (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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チョコレートの箱

「……もしぼくが自惚れだしたな、と思ったらいつでも——そんなことはあるまいが、ないとも限らないし」
 私(ヘイスティングズ)は笑みを抑えつけた。
「そう思ったら、“チョコレートの箱”と言ってくれ。いいな?」

「チョコレートの箱」よりポアロの言葉

ポイント

探偵:エルキュール・ポアロ
原題:The Chocolate Box
底本:『ポアロ登場』(1924年;真崎義博 訳)

風が吹き荒れ、雨が窓を打つひどい夜。エルキュール・ポアロとヘイスティングズ大尉は暖炉のまえで脚を伸ばしていた。
そんなとき、ポアロは自らのベルギー時代の失敗談を披露してみせる。
その最後でポアロが言った言葉が上の引用文ですが、これはホームズ物語の「黄色い顔」(短編集『シャーロック・ホームズの回想』所収)へのオマージュでもあり、パロディでもあったりします。

この作品を気に入ったら

『ポアロ登場』(真崎義博 訳)はポアロとヘイスティングズのかけあいが面白い、ポアロものの第1短編集です。
また、「チョコレートの箱」はデビッド・スーシェ主演の「名探偵ポワロ」シリーズでTVドラマ化されています。
だいぶん脚色されていますが、むしろ原作より面白いかもしれないので、ぜひお楽しみください。

あわせて読みたい

クリスマスの悲劇

ポイント

探偵:ミス・マープル(ジェーン・マープル)
原題:A Christmas Tragedy
底本:『火曜クラブ』(1932年;中村妙子 訳)

詳細は、先述のこちらをご確認ください。
ここでは、クリスティー文庫の中村妙子さんの訳をご紹介します。

火曜クラブ (クリスティー文庫)

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アガサ・クリスティー, 中村 妙子
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クィン氏登場

クィン氏の到来は、けっして偶然ではなく、出番が来た役者が舞台に上がったようなものだった。今夜、ロイストン荘の大広間では、一幕の芝居が演じられていた。(中略)これはクィン氏のしわざだ。彼がこの芝居を演出し、役者たちに出番の合図を出しているのだ。彼がこの謎の中心にいて、糸を引き、人形を操っている。彼はなにもかも知っている——

「クィン氏登場」(嵯峨静江 訳)より

ポイント

探偵:ハーリ・クィン
原題:The Coming of Mr. Quin
底本:『謎のクィン氏』(1930年;嵯峨静江 訳)

大晦日の夜、ロイストン荘の友人宅でのパーティーに招待された初老の英国紳士サタースウェイト氏。
これまで彼は、面前でくりひろげられる、さまざまな人生を、間近に見物してきた」が、あくまで観察者であり、そのドラマの当事者になることはなかった。
新年が間近に迫る中、やがて話題は、彼らの友人で、謎の拳銃自殺を遂げた館の前の持ち主へと移り、なにやら緊張した空気が漂い始める。
そんなおり、車が故障して立ち往生したハーリ・クィンが、一時の暖を求めて、屋敷を訪れた……。

クリスティーが生み出した探偵たちはもちろん、古今東西の名探偵と比べても一際(ひときわ)異彩を放つ不思議な「探偵」、ハーリ・クィンの登場です。
超自然的な存在のクィン氏は事件解決のヒントを示すだけで、奔走するのはサタースウェイト氏。
新年を迎えるのにふさわしい結末を導きます。

この作品を気に入ったら

本書『クリスマスの殺人』には、もう一編クィン氏ものが収められています。
いずれの短編も短編集『クィン氏登場』(嵯峨静江 訳)に収録されており、2004年の新訳で楽しめます。
なお、2020年に創元推理文庫からも新訳刊行されており、本作も「ミスター・クィン、登場」というタイトルで収録されていますが、それも含めて後述

謎のクィン氏 (クリスティー文庫)

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アガサ・クリスティー, 嵯峨 静江
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発売日: 2004/11/18
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バグダッドの大櫃の謎

ポイント

探偵:エルキュール・ポアロ
原題:The Mystery of The Baghdad Chest
底本:『マン島の黄金』(1997年;中村妙子 訳)

クレイトン夫妻とリッチ少佐はかなり古くからの友人だった。
問題の3月10日の夜、クレイトン夫妻はリッチ少佐の家に招かれていたが、夫はその日の午後7時半ごろ、別の友人と酒を飲んでいたときに、スコットランドに急用ができたと告げ、そのわけを説明するためにリッチ少佐の家に行った。
やがて、リッチ少佐の家ではパーティーは催された。
その翌朝、少佐が中東から持ち帰ったバグダッド製の大櫃(おおつ)の中で、クレイトンの死体が発見された……。

本編の日本語訳は、1997年にクリスティー没後20年を経てファンに届けられた短編集『マン島の黄金』の他に、1939年にアメリカで出版された短編集"The Regatta Mystery"(クリスティー文庫では『黄色いアイリス』)にも収録されています。
『黄色いアイリス』に収められているものも中村妙子さんの翻訳ですが、訳文が『マン島の黄金』のそれと少し違います。

この作品を気に入ったら

『マン島の黄金』については後述するので、ここではポアロもの5編、パーカー・パインもの(後述)2編、マープルもの1編、ノンシリーズの幻想小説1編を収めた『黄色いアイリス』中村妙子 訳)をお薦めします。
なお、短編「バグダッドの大櫃の謎」を膨らませた中編が「スペイン櫃の秘密」(邦訳は後述の短編集『クリスマス・プディングの冒険』所収、福島正実 訳)で、これが「名探偵ポワロ」ではドラマ化されていますが、そのドラマ内容はむしろ「バグダッドの大櫃の謎」に近いです。

黄色いアイリス (クリスティー文庫)

黄色いアイリス (クリスティー文庫)

アガサ・クリスティー, 中村 妙子
773円(01/24 07:11時点)
発売日: 2004/06/20
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牧師の娘

クリスマスは一年に一度しかこないんだから

「牧師の娘」よりトミーの言葉

ポイント

探偵:トミーとタペンス(ベレズフォード夫妻)
原題:The Clergyman's Daughter
底本:『おしどり探偵』(1929年;坂口玲子 訳)

素人探偵となってさまざまな事件を解決していくトミーとタペンス。
自分たちが読んだ有名な推理小説とそこに登場する名探偵たちの手法を参考に、「探偵ごっこ」を繰り広げる彼らだが、今回はやたらとおしゃべりな作家探偵ロジャー・シェリンガムになりきって、牧師の娘が相続した〈赤い館〉の謎に挑む。

トミーとタペンス物は長編が4作あって、作品とともに年を重ねるのが特徴ですが、本作が収められた短編集『おしどり探偵』はトミーとタペンス物の唯一の短編集。
幼なじみだった二人が再会したところから始まる、冒険小説『秘密機関』の後に結婚した彼らは、共同で探偵社を経営し、事務所の受付係アルバートとともに事務所を運営しています。
なお、ロジャー・シェリンガムはアントニイ・バークリーが生み出した名(迷)探偵で、近年、ほとんどの作品が翻訳されましたが、最も有名な作品はやはり昔から翻訳がある『毒入りチョコレート事件』でしょうか。
(私のお気に入りは『最上階の殺人』ですが。)

この作品を気に入ったら

各話ごとに、パロディ(おふざけ)とパスティーシュ(本歌取り)とのあいだを自由自在に行き来して読者を翻弄する、短編集『おしどり探偵』(坂口玲子 訳)をお楽しみください。
また、この短編集の収録作品の一部は1982〜83年にドラマ化されています。
現在品切れ中ですが、DVDにもなっており、「牧師の娘」「赤い館の謎」という邦題でドラマ化されています。
ドラマは、セット(室内)とロケ(外)で画質が違いすぎるのが難点ですが、そこが気にならなければ、この短編集の読者なら気に入られると思います。

おしどり探偵 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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アガサ・クリスティー
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プリマス行き急行列車

ポイント

探偵:エルキュール・ポアロ
原題:The Plymouth Express
底本:『教会で死んだ男』(1982年;宇野輝雄 訳)

12月、ある大尉がプリマス行き急行列車の一等客室に乗りこんだとき、室内でクロロホルムの匂いを感じた。
やがて、スーツケースをむかい側の座席の下に押し込もうとしたが、うまくいかない。
そこには心臓を突き刺された女性の死体があったのだ!
凶悪な殺人の意外な真相をポアロは見抜く。

この作品を気に入ったら

『教会で死んだ男』は日本で独自に編纂された短編集。(後述)
本作自体は1923年にイギリスで、1924年にアメリカでそれぞれ発表されたようです。
日本では、1960年に独自編纂された『ポワロの事件簿2』(創元推理文庫)でも、「プリマス急行」(小西宏 訳)というタイトルで読めます。
この作品ももちろん「名探偵ポワロ」でドラマ化されています。
また、本作が原型となって記された長編が『青列車の秘密』
クリスティーの私生活が大変でコンディションが悪い時に書かれた長編ではありますが、なかなか読ませる作品です。
(これも「名探偵ポワロ」でドラマ化されていますが、かなり脚色されています。)

ポワロの事件簿 2 (創元推理文庫 105-7)

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ポリェンサ海岸の事件

あなたは幸せ? でないならパーカー・パイン氏に相談を。

「中年夫人の事件」(乾信一郎 訳)より

ポイント

探偵:パーカー・パイン
原題:Problem at Pollensa Bay
底本:『黄色いアイリス』(1939年;中村妙子 訳)

上の引用は本作ではなく、短編集『パーカー・パイン登場』の最初に収録された作品「中年夫人の事件」の冒頭に記された新聞広告。
クリスティーは、統計について熱く語る男性客の会話からパーカー・パインを創り出したそうで、パインは、35年間の官庁勤めを終え、長年の仕事の経験から不幸な人の悩みを解決する仕事を、第二の人生に選んだ初老の男。
外見は度のきつい眼鏡をかけた禿頭の大男ですが、なぜかその姿には人を安心させる力があります。
『パーカー・パイン登場』の最初の6編は、彼の事務所を訪れる依頼人の悩みを解決できるようお膳立てする、というものですが、なかなかの傑作揃いです。
後半の6編は、中東などへの旅行に出たパインが行く先々で出くわす事件を解決するトラベルミステリ。
そして、『パーカー・パイン登場』に収められていない「ポリェンサ海岸の事件」では旅先での相談事に対応し、「レガッタ・デーの事件」(中村妙子 訳)では盗難事件にまつわる相談を解決します。
この2編は、クリスティー文庫では先に紹介した短編集『黄色いアイリス』に収められています。
パーカー・パインものはこの14編のみです。

さて、「ポリェンサ海岸の事件」では、冬の休暇にマジョルカ島のパルマを訪れたパーカー・パインが、そこで、息子の交際相手が気に入らない女性から「二人を別れさせてほしい。」と相談を持ちかけられます。
一方、その息子の交際相手ベティーは、彼が母親を気にしてばかりで、自分を諦めかねないので、この難局を上手く切り抜けられる方法を、パインに相談するのでした……。
何事も見かけどおりではないという、パーカー・パインもの全作に通ずる教訓が、本作でも楽しませてくれます。

この作品を気に入ったら

短編集『パーカー・パイン登場』(乾信一郎 訳)も手に取ってもらいたいところですが、実は、2021年に出た創元推理文庫の新訳『パーカー・パインの事件簿』(山田順子 訳)には、『パーカー・パイン登場』には未収録の2編、すなわち「ポーレンサ入江の出来事」「レガッタレースの日の謎」も収められた〈完全版〉です。
なお、この「レガッタレースの日の謎」「レガッタ・デーの事件」)は、元々はポワロが探偵役でしたが、短編集出版時に探偵をポワロからパーカー・パインに書き直したようです。
このポワロ・バージョンは、論創海外ミステリの戯曲集『十人の小さなインディアン』に、ボーナストラックとして「ポワロとレガッタの謎」(渕上痩平 訳)というタイトルで収録されています。
ちなみに、この戯曲集は『そして誰もいなかった』の戯曲版『十人の小さなインディアン』の他に、『死との約束』『ゼロ時間へ』の戯曲版も収められているので、クリスティー・ファンの方はぜひ。
戯曲版の中には、小説版からプロットを大きく変更されたものもあるので、小説を読んだことのある方も楽しめるでしょう。

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教会で死んだ男

ポイント

探偵:ミス・マープル(ジェーン・マープル)
原題:Sanctuary
底本:『教会で死んだ男』(1982年;宇野輝雄 訳)

バンチ(ハーモン夫人)は、11月のある寒い日に教会の中で死にかけている男を見つけた。
彼は、ただ一語、「サンクチュアリ」という言葉を繰り返し、バンチに夫のジュリアンの名前らしき言葉をつぶやいた後、介抱の甲斐もなく息たえてしまった。
拳銃自殺かと思われたが、その後、彼の姉夫婦と名乗るエクルズ夫妻がやってきて、弟の背広を引き取って帰っていった。
バンチはロンドンで生活していたミス・マープルに相談する……。

バンチの住むチッピング・クレグホーンは、ミス・マープルものの代表作の一つ、長編『予告殺人』の舞台となったところで、本作は『予告殺人』の数年あとの出来事のようです。
本作はバンチとミス・マープルが策略を凝らすのが読みどころの一つ。
また、ラストは余韻を残します。

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短編「教会で死んだ男」は1954年に最初に発表されたようで、先述のように短編集『教会で死んだ男』(宇野輝雄 訳)は日本で独自に編纂されたものです。
この短編集はミス・マープルもの1編の他、ポアロもの11編、そして独立した怪奇短編1編が収録されています。

教会で死んだ男 (クリスティー文庫)

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狩人荘の怪事件

ポイント

探偵:エルキュール・ポアロ
原題:The Mystery of Hunter's Lodge
底本:『ポアロ登場』(1924年;真崎義博 訳)

インフルエンザにかかったポアロの元へ、ミスタ・ロジャー・ヘイヴァリングという紳士がやってきて、いっしょにダービシャーへ来てほしいと依頼した。
ダービシャーで叔父が殺されたらしい。
ポアロの代わりに応対したヘイスティングズが同行することになったのだが……。

ポアロとヘイスティングズは電報でやり取りすることになるのですが、そのかけあいが面白いです。

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先述「チョコレートの箱」と同じく、本作は『ポアロ登場』に収められています。
この作品も「名探偵ポワロ」で「猟人荘の怪事件」というタイトルでドラマ化されていますが、大分脚色されています。

ところで、ポアロもののクリスマス・ストーリーと言えば、長編『ポアロのクリスマス』を外すわけにはいけません。
クリスティーの義兄ジェームズのために書いた「『もっと血にまみれた、思いきり兇暴な殺人』(中略)それが殺人であることに一点の疑いをさしはさむ余地のないような殺人」ミステリー!
クリスマス的趣向に満ちた「がちゃがちゃ」したトリックをご堪能下さい。
(映像化もされています。)

ポアロのクリスマス (クリスティー文庫)

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世界の果て

ポイント

探偵:ハーリ・クィン
原題:The World's End
底本:『謎のクィン氏』(1930年;嵯峨静江 訳)

公爵夫人のせいで、サタースウェイト氏はコルシカ島に来ていた。
そこには自称芸術家のネオーミがいた。
公爵夫人によると、彼女の以前の恋人は、誰かの宝石を盗んで、捕まってしまったらしい。
そんな彼女と公爵夫人、サタースウェイト氏は一緒にドライブに出かける。
雪が積もった山頂から、風が吹き付ける中、彼らが着いた場所は〈コチ・キャヴェエリ〉という小さな村だった。
ネオーミはその絶景地を“世界の果て”と呼んでいたのだが、そこにはハーリ・クィンがいた……。

サタースウェイト氏がハーリ・クィンと出会ったとき、そのたびに不幸な恋愛絡みの犯罪の謎が解かれ、愛の奇蹟を起こします。

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先述のように、本作も短編集『謎のクィン氏』に収録されていますが、2020年に創元推理文庫からも『ハーリー・クィンの事件簿』(山田順子 訳)というタイトルで新訳刊行されました。
いずれも12編収められています。
創元推理文庫版の「はじめに」によれば、クリスティーがお気に入りのミスター・クィンの物語の1つに「世界の果て」が入っています。

ところで、ハーリー・クィンものはこれですべてではなく、1926年に発表された「愛の探偵たち」(宇田川晶子 訳;邦訳は短編集『愛の探偵たち』所収)と、1971年に発表された「クィン氏のティー・セット」(小倉多加志 訳;邦訳は短編集『マン島の黄金』所収)の2編があり、ハーリ・クィンものは計14編です。
『マン島の黄金』については後述。)
なお、『謎のクィン氏』最終話「道化師の小径」『ハーリー・クィンの事件簿』では「ハーリクィンの小径」)のラストで、クィンと別れたサタースウェイト氏は、その後ポアロと出会い、長編『三幕の殺人』では探偵ポアロを食うほどの名脇役ぶりを発揮します。
(「名探偵ポワロ」ドラマ版には、残念ながらサタースウェイト氏は登場しません。)

ハーリー・クィンの事件簿 (創元推理文庫)

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三幕の殺人 (クリスティー文庫)

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エドワード・ロビンソンは男なのだ

ポイント

原題:The Manhood of Edward Robinson
底本:『リスタデール卿の謎』(1934年;田村隆一 訳)

エドワード・ロビンソン君は、ロマンスと冒険の世界にあこがれていた。
彼は景気のいい会社の事務員をしているし、養わなければならないものもいないし、おまけにモードと婚約している。
常識と分別のあるモードを愛しているし、彼女と幸せにやっていくことになるだろう、と信じてはいるが、少々“口やかましすぎる”と思っていた。
彼女の長所が彼をやけっぱちの行動に駆りたてるのだ。
たとえば、明日はクリスマス・イヴなのに、家に来て家族といっしょに過ごさないか、という彼女の誘いを断ったのも、そう。
3カ月前、彼はある懸賞で一等賞の500ポンドを獲得した。
モードに話すつもりでいたが、ある日、映画に連れて行って最上席をとったら、「大切なお金の浪費だわ」と言われたエドワード。
この瞬間、彼は465ポンドの高級車を買う決心をしたのだった。
クリスマス・イヴ。エドワードは愛車とともにロンドンを脱出した……。

本書収録作品中、探偵(どころか警察も)出てこない唯一の作品ですが、この作品、好きなんです。
いや、最初は本を読んだのではなく、1982年に英国で放送された「アガサ・クリスティー アワー」にてドラマ化されたのを見たのですが。
エドワードを演じたのは、若きニコラス・ファレル。
(ドラマ「名探偵ポワロ」にも、『ABC殺人事件』『青列車の秘密』で出演されています。)
彼の演じるエドワードが素敵で、エドワードが体験する一夜のロマンスと冒険にワクワクしたものです。
(そして、オチも秀逸。)
原作を後から読んだら、原作にほぼ忠実にドラマ化されていたのだなぁ、と気づきました。
「アガサ・クリスティー アワー」はLaLa TVやAXNミステリーで放送されていましたが、残念ながらソフト化されていません。
単発の1時間ドラマ全10話のうち、パーカー・パインも2話登場するので、もし機会がありましたら見てみてください。

この作品を気に入ったら

短編集『リスタデール卿の謎』(田村隆一 訳)には、表題作の他、江戸川乱歩 編『世界推理短編傑作集3』(創元推理文庫)にも収録されている「ナイチンゲール荘」『世界推理短編傑作集3』では「夜鶯荘」(中村能三 訳))も収められています。
いずれもノン・シリーズの短編が12編です。

リスタデール卿の謎 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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クリスマスの冒険

ムッシュー・ポアロは、そのすべてを楽しんだ——そう、ぞんぶんにその楽しみを味わったのだった。

「クリスマスの冒険」(深町眞理子 訳)より

ポイント

探偵:エルキュール・ポアロ
原題:Christmas Adventure
底本:『マン島の黄金』(1997年;深町眞理子 訳)

ヘイスティングズが遠い南米に行ってしまって、ここしばらく寂しい思いをしているポアロ。
雪のクリスマスにエンディコット氏の家に招かれたポアロは、そこで執事から一通の手紙を受け取る。
そこには、みみずののたくったようなたどたどしい文字で、こんな文言が綴られていたのだ。
「ぜったいにプラム・プディングを食べちゃいけません」

1923年に発表された本作は、1940年代に2つの短編集に収められたようですが、この短編集はいずれも短命で、今ではその存在さえ、ほとんど知られていない、とのこと。
イギリスでは、1997年にクリスティー没後20年を経てファンに届けられた短編集『マン島の黄金』に収められました。
アメリカでは、本書『クリスマスの殺人』が初めての収録短編集となります。
そして、この「クリスマスの冒険」はクリスティー自身の手によって加筆されて中編小説になり、『クリスマス・プディングの冒険』と題する本に収められました。
クリスティーも自らのクリスマスの想い出を懐かしく思いながら、楽しく書いたことが伝わってくる作品です。

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「クリスマスの冒険」の他、先述「バグダッドの大櫃の謎」、同じく先述クィン氏のティー・セット」などが収録されている『マン島の黄金』(中村妙子・他訳)はバラエティに富んだ作品集で、読ませてくれます。
そして、『クリスマス・プディングの冒険』(橋本福夫・他訳)はクリスマスの時期にはマストリードな本。
クリスティーは「はじめに」で、このように記しています。

 このクリスマスのご馳走の本は、『料理長のおとくい料理集』と名づけてもよろしいでしょう。わたしがその料理長なのですよ! おもな料理は二つあります。「クリスマス・プディングの冒険」と、「スペイン櫃(ひつ)の秘密」。選りぬきの添えもの料理としましては、「グリーンショウ氏の阿房宮」「夢」「負け犬」、シャーベットとして、「二十四羽の黒つぐみ」。

「はじめに」(橋本福夫 訳)『クリスマス・プディングの冒険』より

この中編「クリスマス・プディングの冒険」(橋本福夫 訳)は、ドラマ「名探偵ポワロ」では、別題の「盗まれたロイヤル・ルビー」で映像化されています。
主演のデビッド・スーシェさんによる、〈英国王室御用達〉のマンゴーのさばき方も見どころの一つ。

クリスマス・プディングの冒険 (クリスティー文庫)

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アガサ・クリスティー, 橋本 福夫
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まとめ(2):『クリスマスの殺人』は親しい人や自分へのプレゼントに最適

以上、真冬をテーマにしたアガサ・クリスティーのミステリー12編を収めた、『クリスマスの殺人 クリスティー傑作選をご紹介しました。
豪華な函入り本ながら、本のサイズ自体はそれほど大きくないので、親しい人へのクリスマス・プレゼントとしても、あるいは自分用のプレゼントとしても最適で、気軽に読めます。
ポアロ、ミス・マープル、トミーとタペンス、パーカー・パイン、そしてクィン氏と、クリスティーを代表する名探偵も勢ぞろいするので、この傑作選で興味を持たれた探偵については、彼らの関連作品にも手を伸ばしたいところです。

クリスマスの殺人 クリスティー傑作選

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付記:忘れてはならない『ベツレヘムの星』

アガサ・クリスティーのクリスマス作品として、本書のほかに『ポアロのクリスマス』『クリスマス・プディングの冒険』をご紹介しましたが、もう1つ忘れてはならない短編集があります。
それは、『ベツレヘムの星』(中村能三 訳)。
ミステリ仕立てにはなっていないので、『クリスマスの殺人』には収録されていませんが、ミステリ要素はある、聖書に題材をとった物語と詩を集めたクリスマスブック。
それもみんな大人用で、かなり辛口なクリスマス、そしてキリストのお話です。
中村銀子さんのイラストも印象に残る、この『ベツレヘムの星』
わずか140ページ足らずの一冊なので、クリスマスの夜にご一読を。

ベツレヘムの星 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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-シャーロック・ホームズ, ミステリー・推理
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