特別投稿

「屍人荘」と「魔眼の匣」とクローズドサークル

2019年11月9日

洋館の閉じられた窓

engin akyurtによるPixabayからの画像

「クローズドサークル?」と首を傾げたのは比留子さん。「閉じ込められるってこと?」
「天候や道路の遮断で事件現場から出られなくなるのは、ミステリでよくある展開なんですよ」
俺が説明してあげた。
「そうなると警察の手が及ばず、捜査の手がかりが圧倒的に少なくなりますからね。論理的な推理に頼る場面が増えるってわけです」

今村昌弘『屍人荘の殺人』より

国内主要ミステリー賞を総なめにした『屍人荘の殺人』

『屍人荘の殺人』とクローズドサークル

2017年に第27回鮎川哲也賞受賞作『屍人荘の殺人』でデビューされた今村昌弘さん。
その作品はデビュー作ながら、その年末の国内主要ミステリランキングでそれぞれ1位となり、4冠を達成。2019年には文庫化されて、また、映画化もされて12月公開の予定です。

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲。彼が冒頭の引用にある「俺」で、ワトソン役。
そして、「神紅のホームズ」ミステリ愛好会会長の明智恭介
そんな二人の前に現れる謎の探偵少女、剣崎比留子
この三人が、合宿に参加するためにペンション紫湛荘(しじんそう)を訪れたのですが、想像しえなかった事態に遭遇し、紫湛荘に立て篭りを余儀なくされる。
一夜明け、一人の惨殺死体が…というのが、本作のあらすじです。

冒頭の引用は、「想像し得なかった事態に遭遇」してクローズドサークルになってしまう前に発せられた会話ですが、クローズドサークルが簡単に説明されているので引用しました。

『屍人荘の殺人』を書くきっかけになった『月光ゲーム』

ところで、『屍人荘の殺人』映画では、私が最近注目している女優の浜辺美波さん(英語教育のミニ番組「ボキャブライダー」にも出演されています)剣崎比留子を演じています。
その美波さんがラジオ番組「浜辺美波 真夜中のシンデレラ」2019年6月6日深夜放送分で話されていたのですが、今村先生が本を書こうと思ったきっかけの作品として、有栖川有栖さんの『月光ゲームーYの悲劇'88(こちらもデビュー作!)を薦められたそうです。
この『月光ゲーム』クローズドサークルものの作品。
それも、

「予想だにしない事態」=ここでは山の噴火に巻き込まれて、クローズドサークルになってしまった!

という点は、『屍人荘の殺人』とも通じるところがあります。

ちなみに、美波さんは『月光ゲーム』を読まれて、

展開が全く読めなくて、私が読んだことのない、新しい推理小説だな。

「浜辺美波 真夜中のシンデレラ」2019年6月6日深夜放送分より

と思われたそうで、

ゆーじあむ
美波さんのような若い世代にとっては、一周回って新鮮に感じるのだなぁ。

と、感慨深く思いました。

なお、『月光ゲーム』はオーディオブックにもなっています。
AmazonのAudible版は朗読版で、audiobook.jp版はドラマ版です。
私はaudiobook.jp版を聴いたことがありますが、9時間以上の大作長編で、聴き応えがありました。
月光ゲーム―Yの悲劇’88|audiobook.jp

唯一にして異形のクローズドサークルもの『シャム双子の秘密』

そして、有栖川有栖さんと言えば、ご本人が、

私はエラリイ・クイーンの作品をベース(注:お手本)としてミステリを書いてきた。

「クイーンと私|EQというベース」, ハヤカワミステリマガジン2019年7月号(第64巻第4号)より

と仰っているように、エラリイ・クイーン(エラリー・クイーン)の作品を挙げないわけにはいけません。
『月光ゲーム』の副題にもある『Yの悲劇』も、もちろんクイーンの代表作のタイトルですが、ここでは現場の閉鎖状況が近い(と有栖川先生も仰っている)『シャム双子の謎』『シャム双子の秘密』)を挙げましょう。
この作品では、山火事に遭遇してクイーン父子の身動きがとれなくなることにより、クローズドサークルが形成されます。
『月光ゲーム』と類似するところは、クローズドサークル内の殺人事件を解決したとしても、(ここでは山火事による)死の危険が主人公らに迫っているので、そちらも対策しなければならない点です。

このように、今村昌弘『屍人荘の殺人』で発生するクローズドサークルのルーツをたどっていくと、有栖川有栖『月光ゲーム』(山の噴火)、そして、エラリー・クイーン『シャム双子の秘密』(迫る山火事)に至ると考えられます。
さて、『屍人荘の殺人』における「想像し得なかった事態」とは何でしょうか?
(そこが本作の読みどころの一つ。)

『屍人荘の殺人』映画は原作と別物?

皆さんは『屍人荘の殺人』の原作を先に読まれた(あるいは、読もうとしています)か?
それとも、映画から観ようと考えていますか?

映画では、葉村譲神木隆之介さん、先ほど記したように剣崎比留子浜辺美波さん、そして、明智恭介中村倫也さんが演じられています。
この映画。予告編などを見る限り、原作とはちょっとテイストが違うような感じです。
公式サイトでも、原作の今村先生が、

映画は小説とはまた違う雰囲気になっていて、(以下略)

コメントを寄せられていますし、こんなニュースもチラホラ。


ラルくん
えっ、雲竜型(゚ロ゚屮)屮

この映画の監督は、ドラマ「99.9-刑事専門弁護士-」や「民王」などを生み出した、木村ひさしさん。脚本は、「TRICK」シリーズなどミステリー作品に定評がある、蒔田光治さん。
大胆なアレンジも多くあるようなので、映画は映画、原作は原作として楽しんだ方がよさそうです。
(私も映画を鑑賞してみます。)

『屍人荘の殺人』の続編:『魔眼の匣の殺人』

2019年の始めに出版された『魔眼(まがん)の匣(はこ)の殺人』は、『屍人荘の殺人』シリーズ第二弾ではありますが、単品でも楽しめる構造になっています。
そして、こちらもクローズドサークルものです。
『屍人荘の殺人』と比べると物理的にはシンプルなクローズドサークルですが、死の予言や予知能力が絡み合って、登場人物たちを混乱と恐怖に陥れます。
ラストではどんでん返しもある佳作。
『屍人荘の殺人』を楽しまれた方は、こちらの『魔眼の匣の殺人』も読んでみてはどうでしょうか。

終わりに

この記事では、新人作家のデビュー作ながら数々のミステリー賞を受賞し、その映画化作品の公開も控えている『屍人荘の殺人』を中心に、それに影響を及ぼしたと思われるクローズドサークルものの作品もご紹介しました。

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