シャーロック・ホームズ

怪盗VS名探偵——「ルパン対ホームズ」ものの最古のパスティーシュ戯曲が販売中

2020年5月28日

雄鶏

OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像

「怪盗対名探偵」を描いた作品といえば、古今東西、胸を躍らせるものがあります。
その元祖と言ってもいい、「アルセーヌ・ルパン対シャーロック・ホームズ」ものについては、ルパンの生みの親であるフランスの作家モーリス・ルブランが記して以来、それらのパスティーシュやパロディも多く作られてきました。
最近、それらのパスティーシュやパロディの中で、現存するテキストの中では最古のものと思われる戯曲が、『戯曲アルセーヌ・ルパン対ハーロック・ショームズ』というタイトルで出版されました。
この記事では、その作品をご紹介するとともに、ルブランが書いた「ルパン対ホームズ」も振り返ります。

ルパン対ホームズ;その対決の歴史

ハーロック・ショームズはシャーロック・ホームズのアナグラム

1906年
ルブランは、自身が1905年に世に出したフランスの若き大泥棒アルセーヌ・ルパンを、イギリスの作家コナン・ドイルが生み出し、当時のフランスでも人気のあった名探偵シャーロック・ホームズと対決させた短編「遅かりしシャーロック・ホームズ」を発表し、<夢の対決>を実現させました。
ただし、ルブラン側は名探偵ホームズを無許可で登場させたようで、そのためにいろいろ差し支えがあり、翌年の1907年、

モノクル
定員No. 37:神出鬼没のアンチ・ヒーローに胸が高鳴る 『怪盗紳士ルパン』

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で単行本化した際には、Sherlock Holmesの最初の「S」をHolmesの前に移動させて、「Herlock Sholmès」に変更しました。
フランス語読みでは最初のHは発音せず、また、姓のeの上にアクセント記号(アクサン・グラーヴ)がついているので、カタカナ書きすると「エルロック・ショルメ(ス)」ですが、彼は英国人なので「Herlock Sholmes=ハーロック・ショームズ」と英語読みさせることの方が最近は増えてきた気がします。

このように、言葉の綴りの順番をいくつか入れ替えて、別の言葉を作ることをアナグラムといいます。

もっとも、日本では慣習的に「シャーロック・ホームズ」と翻訳されることの方が多いです。

ゆーじあむ
やっぱりインパクトがあるしね!

どんどんルブラン流に味付けされるハーロック・ショームズ

「遅かりしシャーロック・ホームズ」では、実際にルパンとホームズ(ショームズ)が出会ったのは一瞬でしたが、ルブランは彼らが正面から対決する2つの中編(「金髪の女」「ユダヤのランプ」)を記し、1908年にそれらを単行本化しました。
それが、"Arsène Lupin contre Herlock Sholmès"『ルパン対ホームズ』です。

ルパン対ホームズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ルパン対ホームズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

モーリス・ルブラン
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ところが、日本語ではホームズですが、前述のようにルブランにとってはハーロック・ショームズなので、コナン・ドイルの描くシャーロック・ホームズとは別物と言っても過言ではないくらい、性格などが異なります。
一番、私的に気になるのは、彼のワトスン(原文では「ウィルソン」)に対する接し方で、『ルパン対ホームズ』におけるワトスンはホームズの相棒というより「愚鈍な助手」ではありますが、それにしたって、

ゆーじあむ
……ホームズ、冷たすぎない?

森田崇さんが漫画化した『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』を読んで、その思いはより強くなりました。
文章で読めばサラッと流しそうなところをコミカライズしたら、(ワトスンにとって)こんな残酷な状態だったとは!
ちなみに、『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』では「ハーロック・ショームズ」であり、「ウィルソン」です。
上にお示ししたハヤカワ文庫版は2015年に出版された新訳版で、「シャーロック・ホームズ」であり、「ワトスン」です。
両方で読めば、楽しみも倍増ですよ。

また、『ルパン対ホームズ』所収「金髪の女」のダイジェスト版であるオーディオブック『怪盗ルパン対名探偵ホームズ』もご紹介しましょう。
スタジオ・エコー制作のこのオーディオドラマではワトスンが割愛されていますが、ルパン:落合弘治さん、ホームズ:根本泰彦さん、ガニマール警部(&ナレーション):安原義人さんらが声を務めています。


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怪盗ルパン対名探偵ホームズ - 著者モーリス・ルブラン

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怪盗ルパン対名探偵ホームズ - モーリス・ルブラン

ルブランの描いた「ルパン対ショームズ」のその後

なかなか本題に入れませんが、その前にもう1つ。
1909年に単行本化された『奇岩城(奇巌城)』という、ルパン物の代表作と言ってもいい長編でもハーロック・ショームズは登場しますが、ルパンとメインに戦うのは少年探偵ボートルレで、ショームズの出番は少ないです。
しかしながら、出番は少ないのに、最後の最後でやらかしてしまうので、ルパン側からすれば、

おのれ、ホームズ‼

な作品ですし、ホームズ側からすれば、

こんなの、ホームズじゃない‼

な作品で、いろいろ問題作でもあります。
これも『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』で読めますし、また、2006年にハヤカワ文庫で新訳版が出ており、その電子書籍もありますし、最近トールサイズで重版化されたので、紙版でも比較的読みやすい作品だと思います。

その後、1910年に発表された『813』……というより後編の『続813』にもショームズは登場しますが、ルパンと直接相対することはなく、

ココがポイント

ショームズも解けなかった謎をルパンが解明した!

という比較対象のために、間接的に登場します。。。
また、『ルパン、最後の恋』にも名前だけ登場するようです。(今後の楽しみのため、まだ読んでいない。)

『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』新章『813』編、Kindleにてついに連載スタート!
詳しくは、「ルパン帝国再誕計画」のnoteに記されています。


ようやく本題:戯曲アルセーヌ・ルパン対ハーロック・ショームズ

モーリス・ルブラン公認のパロディ劇

1910年10月28日、フランスはパリ、シャトレ劇場で「ルパン対ショームズ」を題材にしたパロディ劇が初公開となりました。
その戯曲が、今回ご紹介する"Arsène Lupin contre Herlock Sholmes"『戯曲アルセーヌ・ルパン対ハーロック・ショームズ』です。

ヴィクトール・ダルレ/アンリ・ド・ゴルス 作・萩原 純 訳『戯曲アルセーヌ・ルパン対ハーロック・ショームズ』(トサカ文庫)

この戯曲は二人の劇作家がルブランの許可を取って作り上げたもので、翌年3月まで続けて上演されたそうです。
特にミステリ的に特筆すべき大トリックがあったり、文化・芸術的に優れた作品というわけでもないですが、観客を楽しむためのエンターテインメントに徹した本作品は、(内容の一部に、現代社会においては容認しがたい差別的な表現があることを、頭の片隅に置いておく必要はありますが、)現代に生きる私たちが読んでも楽しめるものとなっています。

本作品の意義

  1. 「ルパン対ホームズ」もののパスティーシュとして現存するごく初期のテキストであり、現時点で最古のもの。
  2. 当戯曲のヒロインであるミス・クラークについて。

この詳細は、本作品の訳者解説に記されているので、ここでは詳しく触れません。
2番目については、『813』……というより後編の『続813』に、ルパンが過去の恋人たちを回想するシーンがあるのですが、ミス・クラークだけはルブランが書いた他の作品には登場しない謎の女性でした。

ショームズの息子、小ハーロックも活躍

シャーロキアン的にビックリすることは、この戯曲ではハーロック・ショームズの息子である小ハーロックが登場することです。
彼はフレッドと呼ばれており、まだ少年ですが、なかなか優秀。
ショームズの相棒となって、ルパンを追いつめていきます。

ルブランの筆によるハーロック・ショームズはアルセーヌ・ルパンのライバルではあるものの、当時のイギリスに対する対抗心の表れか、ルパンの方が終始好意的かつ優勢的な立場で描かれており、シャーロキアン的には歯がゆい物を感じます。(前述のウィルソンの扱いもそうでしたね。)
ところが、この戯曲はルブラン公認であり、同時代のフランス人の手で生み出されたものでありながら、訳者である萩原さんの言葉を借りれば、

おしまいまで強く賢く、そして優しさにあふれたイギリス勢の姿が、(中略)イギリス側を良き競争相手として、堅実に描く。現代日本の一読者として安心して楽しめる、うれしい世界です。

『戯曲アルセーヌ・ルパン対ハーロック・ショームズ』訳者解説より

ま、その分、ガニマール警部を始めとするフランス警察は終始、道化役なのではありますが、これはパロディ劇なので。。。

購入方法;Amazonで販売開始です!

「トサカ文庫」とは聞き慣れない文庫ですが、訳者の萩原さんが『戯曲アルセーヌ・ルパン対ハーロック・ショームズ』邦訳書出版の目的で設立されたようです。
文庫といっても、本のサイズは単行本より少し大きめのサイズです。
リンク先にもあるように、2020年5月現在、古本屋さんの盛林堂書房の出版部門である書肆盛林堂で販売されています。

2021年5月現在、書肆盛林堂さんでは品切れのようですが、Amazonでの販売を開始されたようです。


終わりに

2020年4月に翻訳出版された『戯曲アルセーヌ・ルパン対ハーロック・ショームズ』は、現代読者も安心して楽しめるパロディ劇。
画像資料も豊富で、ルパンが「ある動物」に変装するシュールなシーンも収められています。
先行き不透明なこの時代、一服の清涼剤になることでしょう。

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