クイーンの定員

定員No. 30:飄々とした「快」盗紳士『ロムニー・プリングルの冒険』

2022年1月21日

ヴィクトリア朝の自転車

OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像

クイーンの定員にソーンダイク博士ものの短編集が2冊選出されている、作家R・オースティン・フリーマン。
このブログでも、その2冊をご紹介しました。

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フリーマンはこのソーンダイク博士ものを記す前に、医者仲間のジョン・ジェームズ・ピトケアンと合作して、ペンネーム「クリフォード・アッシュダウン」という名義で怪盗紳士ロムニー・プリングルの冒険譚を記しています。
この第一短編集もクイーンの定員に選ばれており、さらにこの本は稀覯本としても知られています。
2021年9月、この短編集を含むロムニー・プリングルの活躍譚がすべて完訳されましたので、この記事ではそれをご紹介します。

作品の詳細データ

クイーンの定員No. 30

The Adventures of Romney Pringle
『ロムニー・プリングルの冒険』クリフォード・アッシュダウン(英1902年)ーHQR

6編収録、全編邦訳。
シリーズ・クリミナル:ロムニー・プリングル

  • The Assyrian Rejuvenator 「アッシリアの回春剤」
  • The Foreign Office Despatch 「外務省報告書」
  • The Chicago Heiress 「シカゴの女相続人」
  • The Lizard's Scale 「トカゲのうろこ」
  • The Paste Diamonds 「偽ダイヤモンド」
  • The Kailyard Novel 「マハラジャの宝石」

入手容易な邦訳

『ロムニー・プリングルの冒険』平山雄一 訳(ヒラヤマ探偵文庫)に、全編収録。


【電子書籍】なし。

フリーマンとピトケアン;もう一人のクリフォード・アッシュダウン

1902年6月から半年間、〈キャッセルズ・マガジン〉という雑誌で連載されたロムニー・プリングルの冒険譚。
クリフォード・アッシュダウンの共作関係、ことにピトケアンという人物に関しては、ふたりの生前には明らかにならなかったようです。
これを突きとめたのは、ソーンダイク研究家として知られたパーシヴァル・メイスン・ストーン。
ハロウェイ刑務所に医師として雇われたピトケアンと、フリーマンの関係については、編集者・ミステリ評論家として著名な戸川安宣さんがヒラヤマ探偵文庫『ロムニー・プリングルの冒険』寄稿されていますので、そちらをご参照ください。

本邦初訳の作品も面白い

本書には「前書き」'Preface'があって、ロムニーという名の独身の紳士が急逝し、彼が残した著作物を紹介する、という形をとっています。
ロムニー・プリングルは、ロンドン東中央区ファーニヴァルズ・インの33号室に住んで、表向きは「著作権代理人」という一風変わった看板を掲げていますが、裏では法律の抜け穴を利用して悪知恵を働かせる詐欺師です。
趣味は読書宝石の整理、そしてサイクリング
(訳者解説によれば、ヴィクトリア朝後期では自転車がブームになったとのこと。また、戸川さんの寄稿によれば、自転車はピトケアンの移動手段でもあったそうです。)
変装をしたりはするものの、特段長けている特殊な能力があるわけではありませんが、なかなか魅力的な人物です。

ロムニー・プリングルの冒険譚は、これまで最初の三作が邦訳されていました。
すなわち、「アッシリアの回春剤」がハヤカワミステリマガジン225号に掲載され(山田辰夫 訳)、「外務省報告書」「外務省公文書」というタイトルで光文社文庫の『クイーンの定員』アンソロジーに(深町眞理子 訳)、「シカゴの女相続人」はハヤカワ文庫の『シャーロック・ホームズのライヴァルたち』アンソロジーに(乾信一郎 訳)、それぞれ収録されています。
個人的には、本邦初訳の後半の三作が面白く読めました。
「トカゲのうろこ」は、ロムニー・プリングルは詐欺を働きはするものの、

ゆーじあむ

プリングル、いいところあるね。

という作品。
「偽ダイヤモンド」は、「トカゲのうろこ」が登場人物が引き継がれており、プリングルの詐欺師ぶりが微笑ましいです。
そして、「マハラジャの宝石」は『洒落者』という名で通っている人物が登場し、彼とプリングルとのやり取りが見ものです。
なお、「マハラジャの宝石」の原題 'The Kailyard Novel' を直訳すると「菜園派小説」で、訳者解説によれば、19世紀末のスコットランドの田園生活を描いた文学一派のことをさすそうです。

『ロムニー・プリングルの冒険』はセカンド・シリーズも収録;続編の詳細データ

第2シリーズ

The Further Adventures of Romney Pringle
『続・ロムニー・プリングルの冒険』クリフォード・アッシュダウン(米1969年)

6編収録、全編邦訳。
シリーズ・クリミナル:ロムニー・プリングル

  • The Submarine Boat 「潜水艦」
  • The Kimberley Fugitive 「キンバリーの逃亡者」
  • The Silkworms of Florence 「フローレンスの蚕」
  • The Box of Specie 「黄金の箱」
  • The Silver Ingots 「銀のインゴット」
  • The House of Detention「拘置所」

入手容易な邦訳

『ロムニー・プリングルの冒険』平山雄一 訳(ヒラヤマ探偵文庫)に、全編収録。


【電子書籍】なし。

続編も、それぞれの短編は1903年に〈キャッセルズ・マガジン〉に発表されていましたが、著者の生前には本になることはありませんでした。
1969年に、アメリカの小出版社オズワルド・トレイン社が第二集を刊行したとのこと。
相変わらず、舌先三寸で世渡りをするプリングル。
それが小気味よいのですが、「銀のインゴット」では第一集の「マハラジャの宝石」にも出てきたあの『洒落者』が再登場して、プリングルは最大のピンチを迎えるのです!
先にも触れましたが、共著者の一人ピトケアンは監獄に勤務する医師だったので、「銀のインゴット」「拘置所」で描かれる警察法廷や監獄の様子はリアリティがあります。

「ヒラヤマ探偵文庫」を購入するには(2022年版)

ヒラヤマ探偵文庫とは、以前にもご紹介したように商業出版ではなく、訳者の平山雄一さんによる個人出版です。
『ロムニー・プリングルの冒険』は、2021年10月に紙書籍で出版されました。

いくつかの古書店で店頭販売されているようで、2022年1月現在、以下の古書店にてネット通販もされています。

また、イラストコミュニケーションサービスのpixiv(ピクシブ)のIDを持っていれば(ID登録は無料)、pixivと連携しているBOOTH(ブース)で買い物ができます。

以前にも記しましたが、興味を抱いたら早めに購入されることをお勧めします。

挿絵を見ながら『ロムニー・プリングルの冒険』を読む

〈キャッセルズ・マガジン〉に連載されていたとき、挿絵を描いていたのはフレッド・ペグラム。
彼はソーンダイク博士シリーズで挿絵を描いていたH・M・ブロックのいとこ、とのこと。

ヒラヤマ探偵文庫『ロムニー・プリングルの冒険』には、表紙に「銀のインゴット」の挿絵が描かれています。
そして、その他の挿絵については、国書刊行会『ソーンダイク博士短篇全集』全3巻を翻訳された渕上痩平さんが、「S・フチガミ」というハンドルネームで記されているブログ「海外クラシック・ミステリ探訪記」で確認できます。
第一短編集『ロムニー・プリングルの冒険』収録作品の挿絵は以下のブログ記事に掲載されています。

「アッシリアの回春剤」「外務省報告書」

「シカゴの女相続人」「トカゲのうろこ」

「偽ダイヤモンド」「マハラジャの宝石」

また、第二短編集『続・ロムニー・プリングルの冒険』収録作品の挿絵は以下のブログ記事に掲載されています。

当時の挿絵を眺めながら、ヒラヤマ探偵文庫『ロムニー・プリングルの冒険』を読めば、プリングルの冒険譚がより楽しめることでしょう。

終わりに

クイーンの定員No. 30は、科学的捜査を重んじるソーンダイク博士シリーズとは違い、舌先三寸で世渡りをする明朗快活な詐欺師、コン・マンが主人公の"The Adventures of Romney Pringle"です。
日本では、その第2シリーズも合わせて『ロムニー・プリングルの冒険』というタイトルで、2021年にヒラヤマ探偵文庫より初めて全訳出版されました。
フリーマンがソーンダイク博士を生み出す前、医者仲間のピトケアンと合作した特異なキャラクター、ロムニー・プリングルの活躍をご堪能下さい。

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