私は海外古典ミステリを読むのが大好きですが、そのきっかけは今から30年以上前、小学生の時に「シャーロック・ホームズ全集」に出会ったことから始まりました。
この記事では、現在の小学生、さらには中・高校生から大人にまでお薦めできる名探偵シャーロック・ホームズ全集、および本格的なホームズ事典を、私の経験も踏まえながらご紹介します。
きっかけは小学校の図書室
私が小学生の頃、小学校の図書室には名探偵ホームズが活躍する作品がいくつかあったので、私はそれらを読んでシャーロック・ホームズという人物に興味を抱いていました。
これらの作品は子供向けにリライトされた作品で、例えば[ホームズ物語](ホームズと、彼の活躍を記録したワトスンの冒険譚)には『青いガーネット』(別題:『青い紅玉』など、原題:The Adventure of the Blue Carbuncle)という作品があるのですが、それが『悪魔のダイヤ』というタイトルとなり、さらにインパクトのある挿絵でドキドキしながら読んでいたのを思い出します。
しかしながら、もし小学4〜5年生の時、図書室に新しく入った下記のホームズ全集に出会わなかったら、私は今のようにシャーロック・ホームズが大好きであり、海外古典ミステリが大好きであることはなかったと思います。
完訳版 シャーロック・ホームズ全集 全14巻;コナン・ドイル原作(偕成社)
偕成社版ホームズ全集の魅力
全14巻(長編4、短編56の全60編が完全収録)、本棚に並べると横幅が30センチメートル以上にもなる、このホームズ全集。
小学生当時の私が最初にその全集を図書室で見かけたときは、青くキラキラ輝いているような感じを受けました。
早速、その中の1冊を借りた私。
私は長編よりも短編の方が好きだったので、先に短編集を手に取ったと思います。
イギリスで最初に発表された当時のイラストが掲載
まず印象に残ったのが、本の中に掲載されている挿絵(イラスト)。
偕成社版ホームズ全集では、[ホームズ物語]が英国で最初に発表された当時の挿絵が主に掲載されているので、シャーロック・ホームズのイメージを決定づけたと言われる挿絵画家、シドニー・パジェットが描いた挿絵を始め、印象的な挿絵が多く掲載されています。
[ホームズ物語]の一編に『這う人』(別題:『這う男』など、原題:The Adventure of the Creeping Man)という作品があるのですが、この最初の題名のページに掲載されていた挿絵が特に鮮烈でした。この短編はホラー的な要素もある作品なので、インパクトが強かったのでしょう。
大人になってこの全集を買いそろえたとき、このイラストを確認して、
と思ったものです。
なお、ドイルがこれを執筆したときは、既にパジェットは鬼籍に入っていたので、『這う人』の挿絵はハワード・K・エルコックが描いたものです。
充実した巻末の解説
ミステリー研究家の各務三郎さんによる「シャーロック・ホームズを推理する」というタイトルの解説も魅力的でした。
全14巻ですから14の解説があるのですが、写真や書影などをふんだんに用いた多角的なアプローチによる解説は、ミステリーの世界にとどまらずとても充実した内容で、大人になった今でも読み応えがあります。
ところで、私は本を購入したらまず巻末の解説から先に読む癖があるのですが、今にして思えば、小学生の頃から既にその癖が染みついたものと思われます。そして、そのきっかけとなったのは、この偕成社版ホームズ全集の楽しい解説だったような気がします。
総ルビながら大人が読んでも楽しめる
この全集は小学校高学年くらいから読めるように、漢字にはルビが振られています。
しかし、「大人になった今でも読み応えがある」と先に記したように、翻訳も読みやすく、[ホームズ物語]の入門書としては最適なものの一つだと思います。
なお、電子書籍でも読むことができますが、「フィックス型」(固定レイアウト型)の電子書籍なので、スマートフォンではやや読みづらいです。 「クイーンの定員」カテゴリーの第2回目は、モーリス・ルブラン『八点鐘』を取り上げます。 このカテゴリーの目的については、こちらの記事をご参照ください。 ルブランと言えばアルセーヌ・ルパンの生みの親で有 ... 続きを見る
(私は偕成社版ホームズ全集の電子書籍は持っていませんが、以下の記事にもあるように、偕成社版アルセーヌ・ルパン全集の電子書籍はいくつか持っています。)
定員No. 69:アバンチュールに胸をときめかせた『八点鐘』
タブレット端末で読まれることをお薦めします。
[ホームズ物語]をさらに探究するために
さて、ここからは2012年に出版された下記の事典をご紹介します。
名探偵シャーロック・ホームズ事典:日本シャーロック・ホームズ・クラブ監修・執筆(くもん出版)
偕成社版ホームズ全集は初版が1983〜1985年頃ですので、各務三郎さんの解説も今となっては少々古びてしまった部分もあります。
この事典は[ホームズ物語]を読み始めた小学生でも楽しめるように、やはり漢字にはルビが振られていますが、大人が読んでも楽しめる本格的な事典。
各務三郎さんの解説の中にも記載があったシャーロッキアン(ホームズ愛好者)団体、日本シャーロック・ホームズ・クラブ(JSHC)には私も入会していますが、そのJSHCが監修・執筆されただけあって、内容は多岐にわたっています。
[ホームズ物語]全60編のストーリー紹介(直接のネタバレはないはず)を始め、ホームズやワトスンが活躍する舞台となったビクトリア時代のこと、ミステリー・推理小説の歴史、さらには英語から日本語訳に挑戦できるページなどもあります。
個人的には、この英文和訳に関するページ(これらのコラムは横書きで、後ろのページから読み進めます)が興味深く、これをきっかけに英語そのものにも関心を持てる構成になっています。
巻頭には写真が豊富に掲載されたカラー・ページもあり、名探偵ホームズに触れるきっかけの一つとしても、あるいは物語に疑問や興味を抱いたときの参考図書としても役立つことと思われます。
終わりに
この記事では、私が小学生の時に感銘を受けた偕成社版シャーロック・ホームズ全集を紹介するとともに、小学生が[ホームズ物語]を読む際の一助となるであろうホームズ事典も併せてご紹介しました。