クイーンの定員

定員No. 71:「小さな灰色の脳細胞」が大活躍する『ポアロ登場』

投稿日:2019年4月17日 更新日:

Poirot

「クイーンの定員」カテゴリー第3回目は「小さな灰色の脳細胞」の持ち主、名探偵ポワロの登場。アガサ・クリスティーです。
このカテゴリーの目的については、こちらの記事をご参照ください。

作品の詳細データ

クイーンの定員No. 71

Poirot Investigates
『ポアロ登場』アガサ・クリスティー(英1924年、米1925年)ーHQR

11編収録(*米版は14編収録)、全編邦訳。
活躍する探偵:エルキュール・ポワロ

  • The Adventure of 'The Western Star' 「<西洋の星>盗難事件」
  • The Tragedy at Marsdon Manor 「マースドン荘の悲劇」
  • The Adventure of the Cheap Flat 「安アパート事件」
  • The Mystery of Hunter's Lodge 「狩人荘の怪事件」
  • The Million-Dollar Bond Robbery 「百万ドル債券盗難事件」
  • The Adventure of the Egyptian Tomb 「エジプト墳墓の謎」
  • The Jewel Robbery at the Grand Metropolitan 「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」
  • The Kidnapped Prime Minister 「首相誘拐事件」
  • The Disappearance of Mr. Davenheim 「ミスタ・ダヴンハイムの失踪」
  • The Adventure of the Italian Nobleman 「イタリア貴族殺害事件」
  • The Case of the Missing Will 「謎の遺言書」
  • *The Veiled Lady 「ヴェールをかけた女」
  • *The Lost Mine 「消えた廃坑」
  • *The Chocolate Box 「チョコレートの箱」
    *米版のみ収録

入手容易な邦訳

『ポワロの事件簿 1』厚木淳 訳(創元推理文庫)に、全編(11編)収録。
『ポアロ登場』真崎義博 訳(クリスティー文庫(早川書房))に、全編(14編)収録。


【電子書籍】全編、『ポアロ登場』(クリスティー文庫)で読める。
その他、9編は『ポワロ登場! 1〜3』小西宏 訳(グーテンベルク21)で読める。


ポワロか? ポアロか?

最初に、作品の詳細データでは「ポロ」と「ポロ」が混在していますが、以下、このブログ記事では「ポロ」で統一します。
参考文献に挙げた『アガサ・クリスティ大事典』の訳者あとがきに面白いことが書かれていました。この事典の翻訳は、清泉女子大学の笹田裕子教授と北九州市立大学のロジャー・プライア先生の共訳ですが、

本書の特徴の一つとして、既に邦訳版が出版された著作や日本で公開された映像化作品のタイトル以外は、固有名詞のカタカナ表記は、イギリス人(しかもイングランド北部出身)のプライア先生が正しいと判断なさった発音に沿いました。「ポワロ」や「クリスティ」の表記もその一例です。

『アガサ・クリスティ大事典』(柊風舎)訳者あとがきより抜粋

つまり、今回ご紹介する短編集は『ポアロ登場』という題名で早川書房から出版されているので、事典の見出し語は「ポアロ登場」と書かれていますが、その説明文では「ポワロ」と表記されているのです。

私も、フランス語の発音的には「ポワロ」の方が近いように思っていましたし、また(後でご紹介する映像作品で)馴染みもあるので、出版された著作物の名称以外については「ポワロ」で統一します。
ただし、「クリスティ」ではなく「クリスティー」と記すのは、私の好みです。。。
なお、創元推理文庫が「ポワロ」、クリスティー文庫(旧ハヤカワ・ミステリ文庫)が「ポアロ」表記です。

「クイーンの定員」はその作家のベスト短編集を選出しているわけではない

『ポアロ登場』は、名探偵エルキュール・ポワロが短編デビューした画期的な短編集ということで「クイーンの定員」に選出されています。
ただし、光文社文庫の『クイーンの定員Ⅱ』こちらの記事の「はじめに」をご参照)の解説によれば、それを選出したエラリー・クイーンの好みは、同じくポワロさんが活躍する連作短編集『ヘラクレスの冒険』(クリスティー文庫)に傾いたとのこと。
また、短編単体についても『リスタデール卿の謎』(クリスティー文庫)に収録されているノン・シリーズ物の短編「ナイチンゲール荘」(「夜鶯荘」)「事故」を言挙げしているようです。

「クイーンの定員」は、H:歴史的重要性、Q:文学的価値、RとS:稀覯本としての希求度の3つの基準を重視することを、このカテゴリーの最初に記しましたが、特に「歴史的重要性」からその作家の第一短編集が「クイーンの定員」に選ばれている割合は比較的高いように思われます。(要検証)
『ポアロ登場』は佳作ぞろいの短編集ではありますが、アガサ・クリスティーの短編集のベストを挙げようとするなら、ある人は『ヘラクレスの冒険』を挙げられるかもしれないし、またある人はミス・マープルが活躍する『火曜クラブ』(クリスティー文庫)(創元推理文庫では『ミス・マープルと13の謎』を挙げられるかもしれません。
また、ある人は『おしどり探偵』『二人で探偵を』『パーカー・パイン登場』『パーカー・パインの事件簿』『謎のクィン氏』『クィン氏の事件簿』、さらにはノン・シリーズ物で幻想と怪奇の短編集『死の猟犬』『クリスティ短編全集1/検察側の証人』などを上位に挙げられるかもしれません。
(参考文献に挙げた『アガサ・クリスティー完全攻略』では、神秘の探偵ハーリ・クィン氏が登場する『謎のクィン氏』をクリスティーの短編小説の中のベストとしています。)

『ポアロ登場』の魅力

では、『ポアロ登場』の魅力は何でしょう。
これは、クリスティー文庫の解説やその刊行当初についたリーフレット「クリスティー文庫通信」No.9、および『アガサ・クリスティー完全攻略』でも示されているように、

ポワロとヘイスティングズのかけあい

にあります。
この短編集の語り手であるヘイスティングズ大尉はポワロさんの友人であり、名探偵の助手として活躍したりもしますが、しばしば不遜な態度を見せるポワロさんに反感を抱くことがありながらも、二人は仲がいいなぁと思わせるシーンがいくつもあり、読んでいて微笑ましくなります。
[シャーロック・ホームズ物語]のホームズとワトスンを彷彿とさせる二人の関係でありますが、『アガサ・クリスティー完全攻略』では、この二人の関係を面白く例えていますので、興味のある方はそれにも目を通してみてください。

英版と米版では内容に異同がある短編集

ところで、上の作品詳細データに記しているとおり、この"Poirot Investigates"という短編集は、1924年にイギリスで出版された英版と翌年にアメリカで出版された米版とでは収録短編数が異なります。
そして、創元推理文庫の『ポワロの事件簿1』は収録作が3編少ない英版に準拠しており、クリスティー文庫の『ポアロ登場』は米版に準拠しています。
「クイーンの定員」においては、先に出版されたイギリス版を<定員>と定めているようですが、光文社文庫『クイーンの定員Ⅱ』には、アメリカ版の最後に収録されている「チョコレートの箱」(深町眞理子 訳)が収録されています。

電子書籍情報

クリスティー文庫はほぼすべてが電子書籍化されているので、『ポアロ登場』も電子書籍ですべての短編を読むことができます。
ただし、コラムニストの香山二三郎さんによる解説は割愛されています。(クリスティー文庫の最初の100巻の電子書籍には、解説は所収されていません。)

クリスティー文庫以外では、デジタル書店グーテンベルク21が出版している『ポワロ登場!』シリーズ(全7巻)のうち、小西宏さんの翻訳による第1巻〜第3巻の中から9編読むことができます。
これは、おそらく創元推理文庫の旧訳版から収録されたものと思われます。(創元推理文庫版の現在の翻訳は厚木淳さん。)
どの電子書籍にどの作品が収録されているかは以下の通り。

電子書籍リスト"Poirot Investigates"に収録されている短編
『ポワロ登場! 1』
5編収録
「マースドン荘園の悲劇」(「マースドン荘の悲劇」)
「格安アパートの冒険」(「安アパート事件」)
「ハンター荘の謎」(「狩人荘の怪事件」)
「百万ドル公債の盗難」(「百万ドル債券盗難事件」)
「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」
『ポワロ登場! 2』
5編収録
「消えた遺言書」(「謎の遺言書」)
『ポワロ登場! 3』
6編収録
「ヴェールをかけた貴婦人」(「ヴェールをかけた女」)
「消えた鉱山」(「消えた廃坑」)
「チョコレートの箱」

映像化・オーディオドラマ化情報

うれしいことに、これらの短編集はすべてテレビドラマ化されています
デビッド・スーシェさんがポワロを演じ、その声を熊倉一雄さんが吹き替えた、ご存じ「名探偵ポワロ」シリーズです。

ポワロさん

ヘイスティングス、モナミ

のかけあいに、ジャップ警部や秘書のミス・レモンも加わる楽しいテレビ・ドラマ。
こちらのドラマではお互いに敬語を使って話しているので、それに馴染んでしまってから小説を読むと、そこでの口調に違和感を覚える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私の場合は自然と脳内変換してから読むことが多いです。

ドラマについては、原作にかなり忠実なものから大きく脚色されたものまでさまざまで、中には原作よりも格段に良くなっているドラマもあります。
また、原作の『ポアロ登場』に収録されている作品の多くは1920年代に起こった出来事であるのに対し、ドラマでは一律1935年頃の舞台設定になっているため、時代背景なども変わっていたりすることもあります。
この素晴らしいドラマ・シリーズは下に記したDVD-SETあるいはBlu-ray BOXにて見られますし、またAXNミステリーなどで放送されていたり、Amazonプライムビデオなどで配信もされています。
なお、DVD-SETには[全巻]とありますが、テレビドラマ「名探偵ポワロ」全作品が収録されているという意味ではありません。
途中から制作チームが変わったニューシーズンの作品(長編作品のドラマ化が中心)が収録されたDVD-BOXは別にあり、それらは現時点でBlu-ray化されていません。それらのBlu-ray化も待たれます。
『ポアロ登場』に収録された作品のドラマ版がどれに相当するのかについて、詳細は参考文献に挙げた「名探偵ポワロ」データベースの「各作品紹介:原作収録別」にありますので、そちらをご参照ください。


『ポアロ登場』に収録されている短編のうち2編(「マースドン荘の悲劇」「首相誘拐事件」)は、オーディオドラマにもなっています。
名探偵ポワロの声は、ここでも熊倉一雄さん。
ヘイスティングス大尉の声は、テレビドラマの吹き替えにおける二代目アーサー・ヘイスティングス役、安原義人さんが担当されています。
物語は原作に忠実に展開しますので、テレビドラマとの違いも比較してみると面白いかもしれません。
これらのオーディオドラマは上にお示ししたようにAmazonで販売されている(Audible会員ならば聴き放題です)ほかに、Apple Books(iTunes Store)でも販売されています。
また、このオーディオドラマ・シリーズは他に長編3作が制作されています。長編についてはAmazonやApple Books(iTunes Store)のほかに、audiobook.jpでも販売されています。

終わりに;参考文献

クイーンの定員No. 71『ポアロ登場』は、気軽に楽しく読める短編集です。
テレビドラマ版などとも比較して読むのも一興でしょう。

この記事の参考文献・参考図書・参考サイト

「名探偵ポワロ」データベース

マッシュー・ブンスン 著・笹田裕子/ロジャー・プライア 訳, アガサ・クリスティ大事典(柊風舎)

霜月蒼 著, アガサ・クリスティー完全攻略[決定版](クリスティー文庫)

ディック・ライリー & パム・マカリスター 編・ジュリアン・シモンズ 序文・森英俊 監訳, ミステリ・ハンドブック アガサ・クリスティー(原書房)

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