各種ミステリーランキングで三冠を達成し、2020年本屋大賞にもノミネートされるなど、今話題の『medium 霊媒探偵城塚翡翠(メディウム れいばいたんていじょうづかひすい)』。
2020年度 第20回本格ミステリ大賞[小説部門]も受賞されました。
この作品にシャーロック・ホームズの名言が引用されていると聞いて、私は本作を読んでみました。
私が『medium 霊媒探偵城塚翡翠』を読んだきっかけ
「先生——、わたしはたぶん、普通の死を迎えることができないのだと思います」
この発言は本作のプロローグに出てくるのですが、「先生」は推理作家の香月史郎(こうげつしろう)、「わたし」は霊媒の女性、城塚翡翠(じょうづかひすい)です。
本作を紹介するメディアの中で、このフレーズが気になった私は、この本を読んでみたくなりましたが。。。
超自然的なことは嫌いではないのですが、どうも読むことを躊躇していました。
もっとも、上でご紹介した講談社BOOK倶楽部のあらすじを読むと、翡翠さんの霊視には証拠能力がないので、その霊視に論理の力を組み合わせて、事件に立ち向かっていくようです。
…とはいえ、どうもすっきりしないので、読書好きの妹にこの本を読んだのか聞いてみたところ、
ということで、読んでみることにしました。
以下、ネタバレはありませんが、もしも私のようにこの本を読むことを躊躇されている方がいらっしゃるようでしたら、講談社BOOK倶楽部のあらすじだけ読んで、このブログ記事の先は読まずに、(そして、いろいろ事前に調べずに、)本作の最終章まで読まれることをお薦めします。
確かに、最終章に至るまでは「萌え」なシーンもあったりして、それはそれで嫌いではないのですが(むしろ好きかも)、時には、
なんだかなぁ(汗)
と少し引いてしまうところもありました。
しかしながら、最後まで読んだら、それも含めて面白く感じられることでしょう。
そして、本格ミステリー好きな方にこそお薦めします。
目次と"medium"の定義
Contents(目次)を確認してみると、
Contents
プロローグ
第一話 泣き女の殺人
インタールードⅠ
第二話 水鏡荘(みかがみそう)の殺人
インタールードⅡ
第三話 女子高生連続絞殺事件
インタールードⅢ
最終話 VSエリミネーター
エピローグ
と、四話構成であることが分かります。
(インタールードとは、幕間(まくあい)とか間奏曲といった意味で、そこで、巷を騒がしている姿なき連続殺人鬼について少し語られます。)
Contentsのあとに、mediumの定義が記されています。
me・di・um[míːdiəm]
(≪複数形≫ me・di・ums, me・di・a)
中間, 中庸; 媒介(物), 媒質, 媒体;
生活環境, 生活条件; 手段, 方法;
霊媒
「霊媒」という意味がでてきましたね!
ミディアムとカタカナ書きすることも多いこの単語ですが、本作では「メディウム」です。
シャーロック・ホームズの名言を引用
名作「踊る人形」からの引用
さて、本題です。
本作で、シャーロック・ホームズの名言が引用されるのは最終話。
アーサー・コナン・ドイルの短編「踊る人形」にてホームズが口にする有名な一節の引用、と書かれており、次のように引用されています。
「中間の推理を悉(ことごと)く消去し、ただ始点と結論だけを示すとすると、安っぽくはあるが、ともかく相手を驚嘆させる効果は充分にある……」
ここで「中間」というキーワードが出てきましたね。
上の引用は、最初に英語で発言されてから、日本語で同じことが繰り返される、とあったのですが、『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の中には英語での引用はないので、英文も調べてみましょう。
If, after doing so, one simply knocks out all the central inferences and presents one's audience with the starting-point and the conclusion, one may produce a startling, though possibly a meretricious, effect.
From "The Adventure of the Dancing Men" (Sir Arthur Conan Doyle)
最初の"after doing so"の部分はその前の文章を受けており、『medium 霊媒探偵城塚翡翠』においては割愛されています。
"the central inferences"が「中間の推理」です。
もし、私が優秀な探偵であり、優秀な読者であったのなら、この引用を聞いた時点で『medium 霊媒探偵城塚翡翠』のプロットを推察できたのですが…(汗)
それはともかく。
「踊る人形」の翻訳をいくつか確認したのですが、『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の引用と全く同じ文章は確認できませんでした。
これは、私の確認していない翻訳文であるのか、もしくは著者の相沢さん自身が翻訳されたものなのでしょう。
「踊る人形」の翻訳を読むには、紙の本でも電子書籍でも読める以下の文庫のいずれかがお手頃でしょう。
ホームズ物語の名作です。
シャーロック・ホームズの復活 【新訳版】 シャーロック・ホームズ・シリーズ (創元推理文庫)
ホームズ物語からの他の引用
『medium 霊媒探偵城塚翡翠』には、こんな引用もあります。
「(前略)。見ることと観察することはまったく別物ですよ?」
これも、シャーロック・ホームズの名言からの引用です。 今回の記事は、「クイーンの定員」に選ばれた短編集の中で最も有名な、と言っても過言ではない、アーサー・コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズの冒険』を取り上げます。ご存じ、[ホームズ物語]の最初の短編 ... 続きを見る
本作ではホームズ物語のどの作品から引用したかを明らかにしていませんが、おそらく「ボヘミアの醜聞」でしょう。
この作品は、ホームズ物語の最初の短編集『シャーロック・ホームズの冒険』の巻頭を飾っています。
定員No. 16:どの翻訳で読まれますか? 『シャーロック・ホームズの冒険』
エラリー・クイーンばりの○○○○が炸裂
『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の最終話では、チェスタトンが「一枚の枯れ葉を隠したいと願う者は、(以下略)」と書いている、とも記されています。 エラリー・クイーンは、「これまでに創造された探偵三巨人」として、ポーのデュパン、ドイルのシャーロック・ホームズ、そして、今回ご紹介するチェスタトンのブラウン神父を挙げています。 記念すべきブラウン神父 ... 続きを見る
これは、本作に出てきた「あるトリック」について説明しているのですが、『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の全体像も表しているのかもしれません。
このチェスタトンの記述は、ブラウン神父シリーズのこちらの短編集に収められた「ある作品」の中にあります。(チェスタトンの作品のネタバレにつながりそうなので、作品名は割愛。)
定員No. 47:ユーモアとウィット、逆説と奇想にあふれた『ブラウン神父の童心』
そして。 このカテゴリーで記事を書くのは初めてなので、最初にその目的を記します。 はじめに;このカテゴリーの目的 このカテゴリーは、作家エラリー・クイーン(ことにフレデリック・ダネイ*)が欧米探偵小説史上最も重 ... 続きを見る
『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の最終話では、「エラリー・クイーン」という言葉も現れます。
定員No. 90:新訳で親しみやすくなった『エラリー・クイーンの冒険』
このブログ記事では『medium 霊媒探偵城塚翡翠』のネタバレはありませんが、勘の良い人は以下の記述でそのプロットに気づくかもしれないので、未読の方はご注意ください。
本作の魅力の一つは、そのエラリー・クイーンばりのロジックにあります。
<読者への挑戦>という章題こそありませんが、
推理小説なら、ここで読者への挑戦状が挟まれるタイミング
という記述もあります。
その後に記される解決篇のロジック、その美しさに驚嘆しました。
ところで、解決篇を読む際に電子書籍は便利です。
という時にでも、検索機能を使えば簡単に分かります。
『medium 霊媒探偵城塚翡翠』、ちゃんとフェアプレイしていました。
待望の文庫化、オーディオブック & その続編
文庫化されました。
オーディオブックも刊行されています。
また、その続編の短編集『invert 城塚翡翠倒叙集』、『invert Ⅱ 覗き窓の死角』については、私の別ブログでも紹介しています。
終わりに
このブログ記事では、今話題の本『medium 霊媒探偵城塚翡翠』にシャーロック・ホームズの名言が記されていることを中心に、ご紹介しました。