私は高校時代に、ベアリング-グールドという人物が注釈をつけた「シャーロック・ホームズ全集」にはまってしまい、ますますホームズに興味を持つようになりました。
ここでは、それを含めた「注釈付き」シャーロック・ホームズ全集をご紹介します。
きっかけは高校の図書室
以前の記事でも図書室が出てきましたが、今回もやはり図書室がきっかけでした。
私が高校生の時のある夏の日、ふと図書室を訪れたところ部屋の隅の方で下記のホームズ全集に出会ったのです。
シャーロック・ホームズ全集 全21巻―詳しい解説/楽しい注/豊富なイラスト;コナン・ドイル 著、W.S.ベアリング-グールド 解説と注、小池滋 監訳(東京図書)
新書サイズで持ち運びに便利なこの全集の一冊を開いて、まずびっくりしたことは本文の下(紙面の下4分の1くらい)に注釈が大量に付いていたこと。
その一つ一つが初めて見聞きするような内容で、とても興味を持った私は、早速第1巻から借りたのでした。
当時、私は電車通学だったので、それからは毎日通学電車の中でそれらをむさぼるように読み、家に帰ってからもそれらを読みふけったものでした。
私の読書遍歴は基本的に今も昔もミステリーだけなので、中学・高校と進学するにつれて図書室で本を借りることはあまりなかったのですが、この年は全21冊を借りて読破したので、図書室の本を借りた冊数がクラスの中で第3位になってしまいました(汗)
なお、2018年のTBSドラマ『アンナチュラル』にて、少年(高校生!)が[ホームズ物語]のある一篇を朗読しているシーンがありましたが、少年が手にして読んでいた本がこの東京図書版のホームズ全集でした。
文庫化された注釈付きホームズ全集
その後、この全集は文庫化されました。
詳注版シャーロック・ホームズ全集 全10巻 ;コナン・ドイル 著、W.S.ベアリング-グールド 解説と注、小池滋 監訳(ちくま文庫)
紙面の上半分が本文で、下半分に小さめの字で注釈が付いています。
別巻の事典を除いた全10巻を積み重ねると25センチメートル以上になり、一冊一冊は(文庫本にしては)ややぶ厚いです。
私が大学時代の時に初版が刊行されたので、随時購入して再読したものでした。
実は、この第1巻[グロリア・スコット号]の初版第一刷には裏表紙に誤植があって、「グロリア・スロット号」となっています。
その頃、私は日本シャーロック・ホームズ・クラブ(JSHC)の月例会に時々参加していたのですが、そこでその情報を知った私は、第一刷ではなく1カ月後に訂正されて刊行された第二刷の方を購入したのでした。
当時は、そういう細かい間違いが気になったので訂正された方を選んだのですが、今にして思えば、
と少しだけ後悔。。。
そうかと思えば、最近Twitterの「JSHC月例会 @JSHCGETSUREIKAI 」(JSHC月例会の公式アカウント)のツイートにて、第2巻[緋色の研究/まだらの紐]の背表紙の著者名が第一刷では「小池滋 監訳」ではなく、「小池滋 監督」になっていることを初めて知りました。
私の持っているのは初版第一刷で、確かに「監督」でした。
20年近く、比較的本棚の見やすいところに飾っていたにも関わらず、全く気づきませんでした(汗)
「詳注版シャーロック・ホームズ全集」と年代学
この全集のもう一つの魅力は、[ホームズ物語]全60編がその発生年代順に配列されていることです。
[ホームズ物語]の多くはワトスンの手記によって占められていますが、その冒険が起こった年月日が書かれていても、実際の日付などと照らし合わせると齟齬があったり矛盾したりする物語があります。
解説と注を記したベアリング-グールドさんは、世界中の研究成果をもとにして[ホームズ物語]の発生年代順を特定しました。この全集は彼による[ホームズ物語]の「年代学」の研究成果とも言えます。
一つ注意しなければならないことは、全60編の発生年代順がまとまっていることもあって、この研究成果はとてもよく引用されていますが、あくまでも「ベアリング-グールドの研究成果」であって「絶対的なものではない」ことは、頭の片隅に残しておく必要があります。
例えば、彼の研究によればワトスンは生涯で3回結婚したことになっていますが、これには異論もあります。([ホームズ物語]にてワトスンが女性と結婚したことがほのめかされるのは2回。)
とはいえ、年代学として美しくまとまっているので、例えば「映像作品も、放送順でも原作発表順でもなく、発生年代順に見てみよう」などという新たな[ホームズ物語]の楽しみ方もできてきて、ワクワクしてきます。
ベアリング-グールドさんは、この「詳注版シャーロック・ホームズ全集」を編集する前に、その年代学の研究成果に基づいたシャーロック・ホームズの伝記を記しています。それがこちらの文庫本1冊です。
シャーロック・ホームズ ガス燈に浮かぶその生涯;W.S.ベアリング-グールド 著、小林司・東山あかね 訳(河出文庫)
残念ながら、東京図書版もちくま文庫版も、そしてこの伝記も現在では絶版・品切中です。
大変面白い本なので、ぜひ復刊してほしいものです。
その後の注釈付きホームズ全集
ベアリング・グールドさんによる「詳注版シャーロック・ホームズ全集」は、原著が1967年に刊行されたものです。
注釈付きホームズ全集はその後もいくつか出版されており、日本語でも翻訳されているのは、英国のオックスフォード大学出版部から刊行されたシャーロック・ホームズ全集。
1993年刊行で、通称はオックスフォード版。
シャーロック・ホームズ全集 全9巻;アーサー・コナン・ドイル著、小林司・東山あかね 訳、[注・解説]高田寛 訳(河出書房新社)
日本では1997年から5年かけて翻訳出版されました。
1997年はちょうど、ちくま文庫の詳注版シャーロック・ホームズ全集が出版された年でもあったので、「お財布が…」とうれしい悲鳴をあげながら購入し、読んだものです。
訳者の小林司さん・東山あかねさんはJSHCの主宰者であり、注訳の高田寛さんはベアリング・グールドのホームズ全集の注訳も担当されています。
注・解説は巻末にまとめて掲載されています。これらはベアリング・グールドのそれがかなりシャーロッキアン的だったのに比べると、文学的というか、学問的という感じでした。
注釈を読んでワクワクするという感じはあまりなかったのですが、勉強になるという感じでした。
この全集は、単行本は絶版ですが文庫化されています。河出文庫で全9巻、電子書籍でも読むことができます。
ただし、文庫版は注・解説がかなり割愛されています。(私は、文庫版は電子書籍で所有しています。)
私が持っている「注釈付き」ホームズ全集のもう一つが、2004〜2005年に刊行されたこちら。
The New annotated Sherlock Holmes; Sir Arthur Conan Doyle, Edited with a Foreword and Notes by Leslie S. Klinger (Norton) The New Annotated Sherlock Holmes 150th Anniversary: The Short Stories (2 Vol Set)
レスリー・クリンガーさんによる注釈付きホームズ全集です。
英語で記しているのは、日本語訳版は出版されていないからです。
この上下巻に分かれた3冊本(上巻は短編集の2巻本、下巻は長編集)については、私はあまり読めていないので詳細は省略します。
本のサイズが大きいので気軽には読めない(重すぎて、ベッドに寝転がっては絶対に読めない)のですが、その分読みやすい構成になっているので、チラチラと眺めているだけでもなんだか楽しくなってきます。
これがすらすら読めるように、英語の学習は続けたいものです。
なお、上に示したAmazon詳細ページを確認すると、短編集の2巻本(The Short Stories)がKindleで110円になっていますが、サンプルを見た限りでは『シャーロック・ホームズの事件簿』の「マザリンの宝石」だけしか収録されていないような気がするので、短編集のKindle版は以下が正しいようです。(そんなに安いはずがない。)
レスリー・クリンガーさんによる注釈付きホームズ全集には、Norton社が出版したこの3巻本以外にもあるようですが、これもここでは割愛します。
終わりに
この記事では、私が高校生の時にはまったベアリング-グールドによる解説と注がついたシャーロック・ホームズ全集を中心に、私が持っている「注釈付き」のホームズ全集をご紹介しました。